その上、休日の時間外労働に対する残業代は通常賃金の2倍を支払わなくてはならないところ、1.5倍で計算されている。Tomwell社では、休日の時間外労働時間と100時間を超える時間外労働時間については、コンピュータではなく手書きで記録されており、これは社会監査官による労働時間の監査を免れるためではないかとSACOMは指摘している。なお、中国では労働基準法で時間外労働は月36時間を超えてはならないと規定されており、両社の時間外労働がいかに法外なものかがわかる。
●懲罰制度で労働管理
さらに衝撃的なのが、労働管理と懲罰だ。Pacific社では労働者を処罰するため、58種類もの規則が制定されており、そのうち41の規則は罰金制度を含んでいる。この罰金制度は労働者と製品の質をコントロールするために頻繁に使われる。労働者に1日の生産ノルマを達成した際に出される割増金(30~60元)から、製品に品質上の欠陥や汚れがあった場合には罰金が差し引かれるが、その額は50~100元となっている。つまり、実質的には割増金以上の金額が罰金として徴収される。これは、Tomwell社でも同様だ。
SACOMの報告書にはファストリが登場する場面もある。品質検査のために同社社員がよく製造現場を訪れるという。同社の求める品質条件は非常に厳しいもので、何か少しでも問題があった場合には製造責任者が追及されるため、製造責任者はすぐに労働者たちを責めて罰金が差し引かれるというのだ。
ファストリはSACOMの報告書を受け、すぐに2工場に対する調査を行い、15日、SACOMから指摘された長時間労働などいくつかの問題点について事実であることを確認したと発表。その上で「両社に対して問題点を早急に是正するよう強く要請するとともに、改善の実現に向けて全面的に協力していく」としている。
今回の問題は取引先である中国工場の話だ。しかし、そもそもファストリがブラック企業との批判を集めた背景には、この2工場と同様に厳しい労働環境があった。そして、それが同社の離職率の高さに表れていた。同社で働く社員たちは、今回の問題をどのように見ているのだろうか。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)