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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

IoTブームの危うさ 日本半導体、ブーム便乗と壊滅を繰り返す元凶とは

文=湯之上隆/微細加工研究所所長

 IoT(Internet of Things:モノとインターネットの融合)が世界的なブームである。新聞や雑誌では、毎日のようにIoTが取り上げられている。1月初めに米ラスベガスで開催された世界最大規模の家電見本市CES(Consumer Electronics Show)でも、IoTとそれに関係するウエアラブル端末が溢れていたようである。

 しかし、ブームには注意が必要である。かつて日本半導体産業は、2000年に半導体メモリのDRAMから撤退した後、ブームとなったSOC(System on a Chip:1チップ上にすべての機能を集積した半導体チップ)に舵を切った。国家プロジェクト、コンソーシアム、合弁会社の設立など、日本はどこもかしこもSOC一色となった。ところがその後、日本のSOCは壊滅的状態となった。

 現在の日本のIoTやウエアラブル端末の動向には、SOCブームに踊らされていた時と同じような空気を感じる。同じ轍を踏まないためにも、なぜ日本がSOCブームで失敗したかを、今一度振り返ってみたい。

●SOCブームはなぜ起きたのか?

 SOCブームを考える上で、衝撃的(笑劇的?)なエピソードがある。07年1月、筆者が同志社大学の教員だった頃、ルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)のある幹部に呼び出されたことがあった。その幹部は筆者に「執筆や講演活動をやめろ」と説教を始めた。大学教員に「書くな、話すな」ということは、「仕事をするな」と言っているに等しい。私は大いに驚き、また憤慨して「執筆も講演もやめません。なぜそんなことを言うのですか?」と反論した。以下は、その幹部とのやり取りである。

ルネサス幹部「君は、事実を歪曲しているからだ」

筆者「私はそうは思いません。もし仮に歪曲しているとしても、それは読者が判断すればいいことです」

ルネサス幹部「違う! そういう考え方が日本をミスリードするのだ!」

私は幹部のこの発言に仰天した。そして、この辺りから、この幹部は激高していった。

ルネサス幹部「いろいろな奴が新聞や雑誌で、事実とは異なる歪曲された内容を書いた。それが日本半導体をダメにしてきたのだ」

筆者「……(絶句)」

ルネサス幹部「特に、『日経エレクトロニクス』元編集長のN。あいつだけは断じて許せない。あいつが日本半導体をミスリードしたのだ」

筆者「どういうことですか?」

ルネサス幹部「そういうことも知らずに、書いたり話したりしているから君はダメなんだ。1990年代の後半、あいつが、『日本はDRAMなんかやめろ』とクソミソにけなしま
くった。そして、それに同調した『日経マクロデバイス』(10年1月休刊)が『日本はSOCに舵を切るべきだ』という記事を書きまくったのだ。あいつらが、日本半導体をミスリードしたんだ」

 この幹部は目に涙さえ浮かべて、このように主張した。そして、こう付け加えた。

「今、日本をミスリードしているのが君だ。だから執筆と講演をやめろと言っているのだ」

 なんということだろう。日本がDRAMから撤退してSOCブームになったのは、雑誌のせいだというのである。そして、今度は半導体が不調に陥った場合(実際にそうなるのだが)、その責任を筆者に押し付けようというのであろうかと驚いた記憶がある。

●雑誌を見て経営しているのか?

 
 このエピソードからは、日本の半導体メーカー幹部は、雑誌を読んで経営判断をしているとしか思えない。筆者の蔵書には1998年9月号以前の『日経マイクロデバイス』はないが、1999年9月号以降2年間分くらいの同誌を見てみると、確かにSOCの記事が異様に多い。しかし、だからといってルネサス幹部が「同誌などの雑誌が『日本はDRAMをやめてSOCをやるべきだ』と書いたから、そうした」とは一体何事だろう。そして、結果的にSOCがうまくいかなかったことに対して「雑誌がミスリードしたせいだ」と責任転嫁しているのである。

 日本半導体産業が凋落した原因はいろいろあるが、まともな経営者がいなかったことが大きな要因であるのは疑いようがない。雑誌を見て経営方針を決めるのなら、筆者にだってできる。

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