特に力を入れるのが、量産型としては世界で初めて市販を開始した燃料電池車(FCV)だ。FCVは、ホンダや現代自動車、フォルクスワーゲンなど、一部自動車メーカーが開発しているが「本気で普及させようとしているのはトヨタだけ」(業界関係者)といわれる。
一方、東京都は、環境に優しい次世代エネルギーとして注目されている水素で電力などを賄う「水素タウン」構想を、東京五輪の選手村で実現する。観客の移動に使われるバスや自動車は、水素を燃料とするFCVをフル活用して、水素社会への転換を世界にアピールする。
仮に日産がスポンサーとなった場合、都の壮大な構想とは裏腹に、運営車両はすべて電気自動車(EV)となる可能性もあった。そもそもトヨタ以外の自動車メーカーがスポンサーとなった場合、運営用のFCVさえ準備できない。トヨタのTOPが実現したのは、東京都、IOC、トヨタの思惑が一致した結果でもある。
●巨額契約金の元は取れる?
さらに、トヨタにとってTOPになることは、マーケティング活動以外でのメリットも大きい。それは、東京五輪を名目にFCV普及に必要不可欠な水素ステーションが、税金を投じて急速に整備されることが見込まれるからだ。東京都は20年度までに、水素ステーションの整備やFCV購入補助金として約450億円の予算をつける方針。
多額の税金を投じて水素インフラを整備してもらい、世界の政府要人も多数来日することが予想される東京五輪で、トヨタのFCVや水素社会をアピールすることで、巨額の契約金の元は取れる可能性がある。
ただ、トヨタが思い描くほど水素社会が盛り上がるかは不透明だ。水素インフラを一から整備する必要があるFCVに否定的な見方は、自動車業界でも根強い。そもそも化石燃料から水素を製造する過程で二酸化炭素が排出されることから、環境に優しいエネルギーと呼べるのかとの指摘もある。東京五輪開催後、多額の税金を投じて整備された水素ステーションには閑古鳥が鳴き、その処分に困るという事態も十分想定される。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)