先祖返りするパナソニック、世界に背を向け「内向き」鮮明か 過去の成功体験への回帰
かつてパナソニックは、半導体事業でUniPhier(ユニフィエ)というCPUとビデオコーデック等を内蔵したシステムLSIと、OSとミドルウェア等から成るソフトウェアプラットフォームで構成されるデジタル家電用の統合プラットフォームを推進していた。半導体事業とUniPhierはデジタル家電の売り上げと軌を一にして成長するが、08年以降、デジタル家電の不振とともに急速に売り上げを落としていく。内製向けであったためだ。結果、パナソニックは半導体事業を13年の暮れに、イスラエルのタワージャズに売却する。
そして、パナソニックはUniPhierをはじめとするシステムLSI事業を切り出し、富士通とともに新会社であるソシオネクストを設立した。今月3月2日から、LSI設計と開発に特化するかたちで事業を開始している。富士通が40%、日本政策投資銀行が40%、パナソニックが20%という出資比率を見ても、パナソニックは同事業での主導権を放棄しており、UniPhierが今後どうなるのか明確な指針は示されていない。現状では、UniPhierは事実上失敗であったといわざるを得ないであろう。これが、パナソニックの半導体事業の現状である。
●戦後の成功体験への回帰
このようにパナソニックの津賀改革を見るに、基本的にはグローバルな展開を念頭に置いているというよりも、国内市場と日本企業に目を向けて、寡占化した競争環境か馴染みの競合相手と差別化をしながら激しく競争をしていくという、不確実性の低い環境での日本的な事業永続を志向しているといえるのではないか。もっとも、不確実性が低い事業環境を選ぶこと自体は、成長できるかできないかは別にして、必ずしも間違った経営判断ではない。
言い換えればパナソニックの戦略は、戦後の多くの日本企業が持つ成功体験への回帰であり、ICTと融合した現在のネオグローバリゼーションがもたらす不確実性の高さ(非連続かつ加速的変化)への適応を通しての変革と成長ではないので、企業の脱皮とは異なるといえよう。同社が昨年7月に発表した、グローバル化への対応とされる成果重視と資格ではなく役割重視の賃金制度見直しの中で、日本的組織の代名詞ともいえる「部長」「課長」の呼称を復活させたのは興味深い。
次回は、ソニーの事業展開を考察していきたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)