ネットは生産性を上げなかったどころか、個人の時間を奪い、一握りの企業にしか富を与えず
情報がデジタル化された金融サービスに、これまたデジタルでヴァーチャルなネットが結びついた結果が、08年の金融危機だといっても過言ではないだろう。こう考えると、ネットがリアルな物理的世界と結びつくことで初めて生産性を上げることができるようになったという事実は、社会の健全性を証明するようで、なんだかホッと安心できるのだ。
ロボットは生産性を上げる?
ここで、「ネットと違ってロボットは生産性を上げる」という、そもそものテーマに戻そう。
『機械との競争』(著:エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー、訳:村井章子/日経BP社)に代表されるように、「技術(イノベーション)は常に雇用を破壊する」という考え方もある。もっとも、ブリニョルフソンは「技術は常に雇用を創出する」とも述べている。ただし、最近はデジタル技術のあまりに急速な進化のゆえに、それについていけない多くの人が仕事を失うようになったとも書いている。
IT分野の大手調査会社ガートナーは、10年以内に現在の仕事の3分の1は自動化によって失われると予測している。ボストンコンサルティングが今年2月に発表した調査結果では、世界の25の製品輸出大国において、製造業における自動化は労働コストを平均16%押し下げるであろうとしている。韓国、中国、日本、ドイツ、米国の5カ国で世界の産業用ロボット購買数の約80%を占めているが、これらの国では25年までに自動化機能の25%をロボットが分担するだろうとしている。また、同調査は、最先端のロボットテクノロジーへの初期投資は大きなものだが、長期的に見ればロボットの運用維持費用は、先進国で人間を雇用するよりも安くつくだろうとしている。
人間は機械との競争で仕事を失う?
米国シカゴ大学がトップクラスの経済学者にアンケート調査したところ、88%が歴史的に見て、自動化がアメリカの雇用を削減することはなかったと答えている。自動化によってコストが削減され価格が下がることによって需要が伸び、結局は仕事が増えるということもある。また、自動化によって製造業に関わる仕事が増えることはないかもしれないが、その分ほかのタイプの仕事、例えば、メカトロニクス(機械工学と電子工学を合わせた造語)エンジニアのように5年前には存在しなかった仕事が増えるということもあるわけだ。
高齢化、少子化の進む先進国、その中でも先端を行く日本にとっては、機械に仕事を奪い取られる心配よりも、ロボット工学の進歩が人手不足の解消に役立ってくれる可能性に明るさを見いだすことができる。ボストンコンサルティンググループ会長のハンス・ポール・バークナー氏は、日本経済新聞のインタビューで、「日本は人口減の問題を移民ではなく、自動化によって乗り切ろうと選択しているように見える」と答えている。