不本意な異動や出向こそチャンス!会社が押し付けるキャリアを歩むのは危険である
経営者と管理者は根本的に異なる
経営者とは「将来の企業の存立基盤を考え、変化をつくり出し、10年単位の時間軸で戦略を形成できる人物」です。一方、管理者とは、「決められたビジネスモデルの中で、できるだけ変化を排除し、年度単位の時間軸で組織の一部機能を担う人物」です。
経営者に求められる資質と管理者の資質とはまったく異なるのです。ですから、管理者の延長線上に経営者のキャリアはないのです。有能な管理者であっても、経営者としての資質は持ち合わせていないことが多いのです。
ましてや現在はハイパーコンペティションの時代ですから、経営者となった人物は、その在任期間中に、ビジネスモデルの改革を進めることが期待され、それが企業存続の条件となってきました。
経営者へのキャリアに“典型的”や“標準的”はない
3月に放送が終了した連続テレビ小説『マッサン』(NHK)の中でも、2人の経営者が登場しました。彼らのキャリアを見てみましょう。
・サントリーの創業者、鳥井信治郎氏がモデルである、「鴨居の大将」こと鴨居欣次郎は、丁稚奉公から始めて20歳で鴨居商店を起こした
・ニッカウイスキー【編註:正式名称は「イ」が歴史的かなづかい】の創業者、竹鶴政孝氏がモデルである、「マッサン」こと亀山政春は、酒造りの家業を離れ、鴨居商店で企業勤めをしてから北海道果汁を立ち上げた
根っからの創業者と、企業勤めからの起業とキャリアが異なります。その他の経営者のキャリアはどうでしょうか。
・永守重信氏は、ティアック勤務とその子会社の役員を経てから、日本電産を創業した
・鈴木敏文氏は、書籍取次会社勤務を経てイトーヨーカ堂に入社し、当時傍流だったコンビニエンスストア事業を立ち上げた
・宮内義彦氏は、日綿實業(現双日)でリース事業の立ち上げを行ったのち、新会社のオリエント・リース(現オリックス)へ移籍した
この5人の経営者のキャリアと冒頭のキャリアの図を見比べてみましょう。
鴨居欣次郎は学業を修めながら仕事の修業も行い、創業経営者となりました。亀山政春は雇われ工場長を務めてから、自分の会社を立ち上げました。永守氏は会社員時代に子会社に移り、それから創業しました。鈴木氏は会社員時代に新組織の立ち上げに携わり、その後、その組織の頂点に立ちました。宮内氏は、社内起業して別会社へ移籍しました。簡単に説明すると、こんなキャリアでしょうか。
彼らは決して、企業が提示する標準的なキャリアを歩んできたのではありません。むしろキャリアの岐路では、多くの人が選択しないであろうキャリア、身内や周りの人たちが反対するであろうキャリアを選択し、それに邁進してきたといえるのではないでしょうか。
したがって、突然の社命によって不本意な異動を告げられても、なんら悲観することはありません。たとえ従来のエリートコースとはいえないキャリアを歩んでいても、決して無駄になることはありません。むしろ典型的でないキャリアや標準的でないキャリアのほうが、人としての幅が広がり、のちのキャリア形成に役立つこともあるのです。
どんな仕事であっても目の前のことに全力で取り組み、管理者ではなく経営者を目指し、経営者のように考え、行動することがキャリア形成にはなにより大事なことなのです。
(文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント)