こうした状況により、黒田日銀の“化けの皮”が剥がれ始めたとの声も聞こえてくる。昨年12月の定例記者会見で黒田総裁は、「量的・質的緩和はオープンエンド(期限の定めがない)か?」という記者の質問に対して、「はい、そうです」と答えた。この一言は重大な意味を持つ。
そもそも、黒田総裁は「2年程度でなるべく早い時期に、2%の物価目標を実現する」と言って、総裁に就任した。就任までの過程では、当時の白川方明前総裁らの金融政策を全面否定していた。
黒田総裁とその片腕である岩田規久男副総裁が推進するリフレーションでは、達成の期限を切らないインフレ目標は欠陥、との考え方が主流だ。リフレ派といわれる黒田総裁と岩田副総裁が、2年と期限を区切ったのもこのためだ。そして、この目標を達成できなかった場合には、日銀総裁は責任を取るべきと明言してきた。
黒田総裁、岩田副総裁は就任までの過程で、「歴代の日銀総裁は、誰もデフレの責任を取ってこなかった」との批判を続けてきた。特に、岩田副総裁は就任会見で、「目標が達成できていない場合には、説明責任を果たさなければならない。説明責任が果たせないということ、単なる自分のミスジャッジだということであれば、責任の取り方は辞任だと思っている」と答えている。
矛盾する黒田総裁の発言
黒田総裁が日銀総裁に就任するために掲げた「2年で2%の物価目標」は、同時に日銀としての公約であり、「量的・質的緩和をオープンエンドとする」こととの整合性について「説明責任を果たすべき」である。「オープンエンドです」と答えて、それがいつの間にか既成事実化するような簡単な問題ではないはずだ。
期限を区切ることで日銀の強い意志を示し、市場に物価上昇の期待を持たせるためだ。現在の景気回復の兆しも、このインフレ期待が根底にある。しかし、目標が達成できないのであれば、期待だけ持たせて裏切ることになる。
市場関係者の間では、黒田日銀はこのままでは目標を達成することができないため、追加の金融緩和に打って出るとの見方が有力だ。しかし、黒田総裁は自らがうたった「異次元緩和」を発表した13年4月4日、「今できることは、すべて行う」と述べている。それであれば、なぜ追加の金融緩和ができるのか。一連の黒田総裁の発言からは矛盾を感じざるを得ない。最近、黒田総裁は記者会見などで「2年」という物価目標を口にしなくなっているが、自身で目標達成は無理だと気付き始めたのだろうか。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)