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「ケアマネ1人で100人担当」が現実に…介護現場の”慢性的人手不足”突破のカギは

2026.04.14 05:55 2026.04.13 23:35 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=成瀬愛/行政書士・ファイナンシャルプランナー

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●この記事のポイント
超高齢社会の日本で深刻化する「2026年問題」(介護職員約25万人不足)に対し、チャーム・ケア・コーポレーションが「AIケアプランナー」を導入。ケアプラン作成時間を最大4時間から2時間へ半減し、ケアマネ1人の担当人数を60人から100人へ拡大。単なるツール導入に留まらず、業務プロセスそのものをクラウド化・自動化する「AI×BPaaS」が、慢性的な人手不足とケアの質の維持を両立する現実解となるか。

 人口の約3割が65歳以上という超高齢社会を迎えた日本。厚生労働省の推計では、2026年度には約25万人の介護職員が不足するとされ、現場の疲弊は限界に近い。この「2026年問題」という高い壁を前に、従来のマンパワーに頼った経営は限界を迎えている。

 こうしたなか、ビジネスシーンで注目を集める「AI×BPaaS(Business Process as a Service)」という手法が、介護現場の景色を劇的に変え始めている。単なるツールの導入に留まらない、業務プロセスそのものの変革がもたらすインパクトを追った。

●目次

「書類仕事」に埋もれるケアマネジャーたちの現実

 介護現場における「司令塔」ともいえる存在が、ケアマネジャー(介護支援専門員)だ。彼らの主要業務の一つに、利用者の状況に合わせた「ケアプラン(居宅サービス計画書)」の作成がある。

 しかし、この書類作成が、専門職である彼らのリソースを著しく奪っているのが実態だ。ケアプラン作成には、本人や家族との面談、課題の分析(アセスメント)、そして多岐にわたるサービス調整が必要となる。

構造的な矛盾と「4時間」の壁

 一般的な実態として、複雑な症例や調整が必要なケースでは、1枚のケアプランを完成させるのに最大で約4時間を要することもある。日経新聞等の報道によれば、ケアマネジャー1人あたりの標準的な担当件数は40~60人程度。これに随時の更新作業や、膨大な付随書類の作成が加わる。

 厚生労働省の試算では、2026年度までに毎年6.3万人の介護職員増が必要とされているが、実際の増員ペースは年間1万人前後にとどまる(NTT東日本調査参照)。

「利用者と向き合い、ケアの質を高めたい。そう願ってこの職に就いたのに、現実はパソコンの前で書類と格闘する時間が大半を占めている」ーー。現場から漏れるこの悲痛な叫びは、介護業界が抱える「専門職のミスマッチ」を象徴している。書類作成という「作業」に追われ、本来の価値である「対人援助」に時間が割けない。この構造的欠陥こそが、離職率を高め、人材確保を困難にする元凶となっている。

チャーム・ケアの「AIケアプランナー」——数字で見る変革

 この状況を打破する先駆的な事例として注目されているのが、東証プライム上場のチャーム・ケア・コーポレーションだ。首都圏・近畿圏を中心に高付加価値な介護付有料老人ホームを展開する同社は、独自の「AIケアプランナー」を導入し、驚異的な成果を上げている。

定量的効果:作成時間を50%削減

 同社が公表しているデータによれば、AIの導入によって得られた成果は極めて具体的だ。

 ・作成時間の短縮: 1件あたり最大4時間かかっていた作成時間が、約2時間へと短縮(50%削減)。
 ・担当可能人数の拡大: 従来、1人で約60人が限界だった担当件数を、約100人まで引き上げることを視野に入れている。

 特筆すべきは、同社がAI単体ではなく、見守りセンサーやインカム、モバイル端末といった複数のDX施策を「掛け算」で運用している点だ。

「チャーム・ケアの事例が画期的なのは、AIを単なる『便利ツール』としてではなく、オペレーションの根幹に組み込んだ点にあります。1人で100人を担当するという数字は、労働強化を意味するのではなく、AIが定型業務を代替することで、人間が『人間にしかできない判断』に集中できる環境を構築した結果といえます」(介護業界に詳しい経営コンサルタントでファイナンシャルプランナーの成瀬愛氏)

 時間が生まれることで、ケアマネジャーは入居者の微細な変化に気づく余裕を持ち、より質の高いケアプランの策定が可能になる。これは、生産性の向上とケアの質の向上が、決して二律背反ではないことを証明している。

なぜ今「BPaaS」が介護に来るのか

 ここで重要なキーワードとなるのが「BPaaS(ビーパース)」だ。BPaaSとは「Business Process as a Service」の略で、ソフトウェア(SaaS)を提供するだけでなく、そのソフトウェアを活用した「業務プロセスそのもの」をクラウド経由でアウトソーシングする形態を指す。

介護とBPaaSの親和性

 ケアプラン作成は、実はBPaaSと極めて親和性が高い。

 1.標準化されたインプット: アセスメントシートという一定のフォーマットがある。
 2.専門的アウトプット: 介護保険制度に基づいた論理的な構成が求められる。

 これまでは「ケアマネジャーの頭の中」にあったナレッジをAIに学習させ、クラウド上でプロセス化することで、属人性を排除した効率的な運用が可能になったのだ。

2026年度に向けた政策の追い風

 政府もこの動きを強力に後押ししている。2025年夏からは約50億円規模の「介護DX補助金」が始動し、2026年4月には全国規模の「介護情報基盤」の導入が予定されている。

 現在、介護DXカオスマップには、記録ソフト、見守り、排泄予測、そして今回のAIケアプラン作成など、数多くのスタートアップが参入している。2026年を境に、テクノロジーを使いこなす施設と、そうでない施設の「経営格差」は決定的なものになるだろう。

業界を超えた示唆——「人が不足する現場」への展開可能性

 介護業界で起きているこの変革は、日本社会全体の「専門職不足×書類業務過多」という共通課題に対する処方箋でもある。

 ・医療分野: 医師の働き方改革に伴う、診療録や退院サマリーのAI作成。
 ・教育分野: 教員の負担となっている「個別指導計画」の自動生成。
 ・福祉・行政: 複雑なケースワークの記録作成と分析。

 これら全ての領域において、BPaaSは「1人の専門職が担当できる人数」の定義を書き換える力を持っている。これは単なるコスト削減ではない。限られた「人的資本」を、最も価値を生む場所に再配分するという、人口減少社会における国家戦略級の経営視点なのだ。

課題と展望——DX導入が失敗する「3つの壁」

 一方で、やみくもなツール導入が失敗に終わるケースも少なくない。介護DXの専門誌や調査(ワイズマン等)によれば、導入が進まない理由として以下の3つが挙げられる。

 1.データ品質の壁: 入力される現場のデータが不正確であれば、AIの回答も精度を欠く(GIGO: Garbage In, Garbage Out)。
 2.現場受容の壁: 「ITに仕事を奪われる」「PC操作が増えるのは嫌だ」という現場の心理的抵抗。
 3.規制対応の壁: 介護保険制度の頻繁な改正に、システムが追いつかないリスク。

 これらを乗り越えるためには、チャーム・ケアのように、トップが「DXによって現場を楽にする」という強いメッセージを発信し、現場のオペレーションとシステムを完全に融合させる「チェンジマネジメント」が不可欠となる。

「1人100人」が示す未来

「ケアマネ1人で100人」という数字は、一見すると衝撃的だ。しかし、それは決して現場への負担増を意味するものではない。AIとBPaaSが事務的な重圧を肩代わりし、専門職が「人としての尊厳を支える」という本来の役割に立ち返るための、解放の数字である。

 2026年問題は、単なる危機の到来ではない。テクノロジーによって日本の「現場力」をアップデートする、最後にして最大のチャンスなのだ。介護業界が今見せている変革の兆しは、数年後の日本社会における「働き方のスタンダード」を先取りしている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=成瀬愛/行政書士・ファイナンシャルプランナー)

公開:2026.04.14 05:55