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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(10月第1週)

「納期は死守!」アップルを支える過酷な生産現場

post_802.jpg(左)「東洋経済 10/6号」
(右)「週刊ダイヤモンド  10/6号」
「週刊東洋経済 10/6号」の大特集は『国境から世界を知る』。尖閣諸島で、竹島で、脅かされる日本の領有権。「国境」という一本の線が時にナショナリズムに火をつけ、争いも引き起こす。世界に領土問題は40以上あるとされている。  今回の特集では、日本が抱える尖閣諸島、竹島、北方領土問題について歴史的経緯や対立する主張、争点を解説。また、中国がインドとの国境のほか、南シナ海をめぐりフィリピン、ベトナムといった周辺国と争う領土問題、2006年に国際社会から承認された新生イラク共和国やゴラン高原をめぐりイスラエルとアラブの間の紛争が絶えない中東事情も取り上げている。

●佐藤優が直言する領土問題解決の方法

 議論の多くはすでに土俵に上がっている。しかし、対立する二国間では歩み寄りがなかなかできないのが現実だ。今回注目したいのは、日本が抱える尖閣諸島、竹島、北方領土問題について作家で元・外務省主任分析官の佐藤優氏がどう見ているかだ。佐藤優氏は東洋経済で「知の技法 出世の作法」という連載を行なっているが、今回は特集の中にも登場。「領土問題 解決への道筋」と外交交渉の提案をしている。

 佐藤氏の視点によれば、客観的に日本が抱える領土問題とは北方領土、竹島、尖閣諸島だ(日本政府の立場は、尖閣諸島は国際法的に日本領であることが明白で、日本が実効支配しているため領土問題は存在しないという立場だ)。

 ロシアに不法占拠がなされている北方領土は、今年12月をメドに野田首相が訪露する合意が得られた。01年に森喜朗首相(当時)とプーチン大統領が署名したイルクーツク声明に基づいて話し合い、議論を前進させたいところだ。56年の日ソ共同宣言に基づいて、色丹島、歯舞群島の近未来における返還と択捉島、国後島の帰属問題に関し協議を加速させたい。

 次に、韓国に不法占拠されている竹島については、竹島問題の国際司法裁判所への提訴をはじめ、問題を国際化することで韓国を外交交渉の席に就かせようとしている日本政府のアプローチは基本的に正しい。政府間で竹島について議論が出来ない以上、双方の国民感情を刺激をする傾向に歯止めをかける作業が必要だ。日韓の学者が民間の立場で議論し、歴史実証的観点から双方の主張を検討し、史実に基づかない主張を排除して、事態の改善を試みていくことを提案している。

 最後に尖閣諸島だが、実は、日本政府は尖閣に進入する中国漁船を取り締まれない事情がある。97年11月11日付の、当時の自民党政権下で小渕恵三外相が中国大使に送った小渕書簡という外交文書で、尖閣諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)では日本の漁業関係の法律は中国人に適用されないとしているためだ。

 つまり、日本政府は「領土問題は存在しない」といいながら、尖閣諸島の管轄権の一部を自発的に放棄しているのだ。佐藤優氏はこの点を問題視、当時の自民党政権と外務省の姿勢に疑問を呈し、外務省は小渕書簡の撤回も視野に入れて、毅然とした態度で中国と交渉すべきだとしている。

 ●アップルに実効支配された日本企業

「週刊ダイヤモンド 10/6号」の特集は『日本を呑みこむアップルの正体』。今年9月、iPhone5が発売されたが、発売から3日間の販売台数は500万台を突破。前モデルをしのぐ初速で勢いは止まらない。アップルの時価総額は6579億円ドルに達し、「史上最も価値の高い会社」となった。その規格外の強さはまさに常識はずれの経営スタイルにある。アップルのビジネスに巻き込まれた企業・産業は例外なく、その激しさに翻弄される。アップルの凄みは「組織の力」にある。そのアップルに迫った大特集だ。

 取材先からは「君に何十億円っていう違約金が払えるなら話そう」と言われては取材を断られ、断られた後にも「アップルに変な形で伝わったら、あなたを訴える」とダメ押し。徹底的な情報管理体制を前に難航したという取材の成果はかなり読み応えのある記事になっている。

 なにしろ、ソニーもパナソニックもシャープもいまや、アップルの下請け企業だ。特に経営再建中のシャープはiPhone、iPad向けの液晶パネルのビジネスがなければ途端に進退窮まってしまうほどだ。今年6月のゴールドマン・サックス証券のレポートによれば、日本における電子部品業界の成長(12年度の11社全社売上高合計が前年度比で5000億円弱の増収)はその半分近く(約45%分)がアップルの増収寄与になるというのだ(コラム『史上まれに見る1社依存 電子部品業界の成長は半分がアップル頼み』)。

 ただし楽観してばかりはいられない。アップルは日本企業を下請けにすべく動いているのだ。

 アップルの取引先は神経質なまでに秘密保持を約束させられる。一方で逆にアップルには取引先の経営が丸裸にされてしまうのだ。

 アップルは部材や工場の生産に精通したスペシャリストによって構成した10~20人のチームを取引先の工場へ監査として派遣。設備や生産能力、工場の人員に外部の調達先や生産のリードタイムなど次々に質問をあびせかける。「その誤差は数%」というレベルで製品の原価計算まで可能なほどの情報を入手し、後日、その監査をもとに飽くなきコストカットを求めてくるのだ。

 この価格交渉の締め付けは「ジョブス時代は四半期に一回だったが、CEOがティム・クックに交代して以来、毎月行われるようになった」取引先もあるという。

 また納期の管理も徹底している。アップルと取引をするには「数百万円以上の特別なシステムを導入する」必要があり、このシステムを使えば、リアルタイムで各工場の生産工程や部材の出荷や到着がアップルと共有できてしまう。このシステムを使って、毎日進捗状況を確認してくるのだという。重要な新製品を生産するときには幹部クラスまで視察にやってきて、生産ノルマが終わるまで待つ。納期は死守なのだ。こうして取引先はアップルとiPhoneでいうところの「同期」されてしまうのだ。

 このアップルは自社の社員にも厳しい。アップル本社は24時間体制で、彼らが日本にくると深夜3時くらいまで平気で会議を続ける。部品一つひとつにまで事細かに購買の責任者を設けており、結果が出なければ1年足らずで首が飛ぶとあって、アップルの購買担当者も必死でコスト削減を迫り、納期を死守させようとする。

 このためにはリスクの高い企業との取引は避けることも重要だ。日本の企業の中には2007年ごろに為替デリバティブで損失を出した経緯があったためにアップルから取引を敬遠されるようになった企業もある。手のひらを返したように大量発注がなくなり、今年8月には85億円の負債を抱えて経営破たんした小型モーターが主力の電子部品メーカー、シコーのような例もある。アップル倒産だ(『PART01 ものづくり日本に広がるアップル支配』)。

アップル向け製品製造の有無で潤い枯れる工場、いわばiFactoryは日本全国に広がっている。ダイヤモンド編集部の調査によれば、全国29の工場がiFactory化しているというのだ。こうした衝撃的な事実を知ると、すでに日本経済はアップルに実効支配されているのかもしれないと思えてくるではないか。
(文=松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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