原油暴落は「暴落」ではない?“本当の”理由とは 割高状態の調整で底打ち安定へ
●原油価格の適正値とは
では、どれだけ割高だったかということを示そう。原油価格の適正値を考える際に「生産コスト」という考えがあるが、実際は役に立たない。原油と一口にいっても多様な種類の原油が取引されており、かつ産油国により生産コストはまちまちであるからだ。原油価格が適正であるかどうかを判断するひとつの目安は、先物の価格構造(フォワードカーブ)である。現物それ自体の理論価格は、あってないようなものである。しかし、先物には理論価格がある。とすれば、先物と現物の相対関係においては、現物にもまた理論価格があるといえる。
商品先物の価格は、現物価格に金利と保管コストを加えたものである。従って、先物のフォワードカーブは期先へ行けば行くほど高くなる(右肩上がり、順ザヤ)のが普通の状態である。ところが、例えばハリケーンが米国のメキシコ湾岸を襲って原油設備が打撃を受ける懸念が高まるなど、なんらかの要因で現物に対する需要が強まると、現物価格が跳ね上がる。一方、その需給ひっ迫の要因が一時的だと思われる場合は、将来の需給に影響を与えないので、期先の価格はあまり変動しない。その結果、フォワードカーブは手前が高くなる(右肩下がり、逆ザヤ)。
WTI先物の直先スプレッドと米国の原油在庫の推移を見ると、2014年前半は在庫が積み上がる過程においても直先スプレッドは拡大しなかった。これはスポット価格が割高に買われすぎていたことを示すものである。
●底打ちを探る水準に
原油価格は、どのあたりで下げ止まるだろうか。そろそろ底打ちを探る水準に近づいてきたというのが筆者の見立てである。フォワードカーブの観点からは、ずっと逆ザヤで推移してきたが、1年先の先物がスポット価格に対して2割弱高くなっている。この程度の価格差があれば、スポットを買って先物を売るという裁定取引が機能する水準であり、一本調子の下落に歯止めがかかるだろう。
もうひとつは、リグカウントが減り始めたことである。リグカウントとは掘削機(ドリル)による掘削数。原油価格の急落で、採算割れを起こしたシェールオイル油田が増えてきていることを示す指標となる。米オイルのリグカウントはシェールオイルの生産が増え始めた09年ごろから急増し、12年~13年は1400前後で安定推移していたが、14年に入ると再び増加に転じ、10月には1600を超え、ピークを付けた。これがおそらく「ラストストロー」となったと思われる。ラストストローとは、最後の藁(わら)という意味。最後の一本の藁が、それまで重荷に耐えてきたラクダの背中を挫く、という喩えがあるように、それまでギリギリ限界的に均衡を保っていたのが、ちょっとした追加的な負荷で崩壊してしまうさまをいう。