早速、サーロインから焼いてみると、ふんわりとした上品な脂の香りが空間を満たしていく。柔らかさが残る程度に焼き、うっすらと赤身が残る状態で口には運ぶと、口内で肉汁とうまみが弾けて口の中ですっと消えていく。これまで食べてきた和牛のなかで、トップクラスのクオリティの肉質だと自認できるほどのもので、これならば舌の肥えたスーパースターたちも納得だろう。
しかし、前述したように、肉は一人前各種一切れしかない。全身全霊で堪能しなければ、細かな差異もわかりかねるほど、どれも脂とうまみがしっかりと詰まっている。一般的な焼肉店で「特上カルビ」として提供される三角バラやランプなどの赤身肉は、肉本来のクセが多少あるため、塩で食べることによってその繊細な違いを楽しめる。もちろん、タレもテーブルに用意されているのだが、みたらし団子にも使えるほど濃厚で甘みが強いため、人によって好みが分かれるだろう。また、肉の脂もキレが良く、口の中にしつこく残るようなことはなかった。
貧乏性ゆえに、計6種の肉を一切れずつ慎重に焼いていき、すべてを堪能し尽くしたあとには疲労感さえ漂った。スーパースターのSMAPメンバーたちは、このクラスの肉をためらいもなく食べたのだろうか。
SMAPファンの“聖地”になる?
最後の締めに、御茶ノ水の有名とんかつ店「ポンチ軒」で提供されているものと同じという「かき氷」を2種オーダー。ふんわりと削られた氷によって、焼肉でヒートアップした身体が心地よく冷やされた。
肉の量にやや物足りなさを感じながらも恐る恐る会計すると、二人で1万8537円(サービス料および税込)。滞在は約1時間程度で、飲み物はソフトドリンクを1杯ずつしか飲んでいないにもかかわらず、この値段だ。7時間滞在したと報じられているSMAPメンバーたちは、5名分の料理やアルコールを合わせると相当な金額だっただろう。
完全に仕切られたプライベートな空間で、最高級和牛を堪能できるため、値段で判断すべきではないのかもしれないが、筆者からしてみると「贅沢をしてしまった」という罪悪感すらある。接待や誕生日など、特別な日に使いたい。
ちなみにAnでは、国産牛を100分間大人1名4500円で食べ放題というリーズナブルなコースもある。気軽においしい肉を大量に食べたいという方には、こちらがおすすめだ。
帰り際、スタッフに「SMAPが来たそうですが、ファンの人は多くいらしていますか?」と質問したところ、「それはもう……」と、やや濁しながらも、SMAPの影響力を示唆するような回答だった。さらに、SMAPについて質問してみたが、微笑で受け流された。お客について簡単に情報を出さないように徹底されているようだ。
かつて、尾崎豊の亡くなった民家が、ファンに聖地として語り継がれたように、AnもSMAPファンの聖地として長く注目されることになるかもしれない。
(文=中島鱧)