藤井聡太の強さ、アルファ碁と共通の仕組みか…AIがプロ棋士に勝つのは当たり前
藤井聡太の強さの要因
ニューラルネットワークの深層学習+強化学習を使って、結果として「ゲームでは人間に勝てるようになった」「グーグル検索でより正確なマッチングができるようになった」」「フェイスブックが写真から人間の顔を認識できるようになった」などといっても、中身がブラックボックスでは、人間の脳の意思決定プロセスが明らかになっていないのと同じではないか。
ディープマインドの創立者のひとりでCEO(最高経営責任者)のデミス・ハサビスは、computational neuroscience(計算論的神経科学/これは人類の知性がどのようなものかを学ぶことで、どうやって知的コンピュータを創るか研究する学問だそうだ)や認知神経科学を学んでいる。だから、人間の脳の仕組みについてはよくわかっているはずだ。
ディープマインドは、大脳皮質をリバースエンジニアリングするといっている。同じように、AIをリバースエンジニアリングすることで、ブラックボックスを明らかにしようという試みも始まっている。AIが、どうやって、そういった結論に達したのか、所有者が知らなければ、法律的問題になる可能性もある。EUは2018年には、AIが下した結論について(融資の可否、病状診断、その他)、AI責任者はユーザーに答えることができなければいけないという規則をつくるかもしれないのだ。
最後に、囲碁や将棋の話に戻る。アルファ碁に負けたイ・セドルは、試合後に、コンピュータと対決することで「(自分は)もう前より強くなりました。コンピュータから新しいアイデアをもらったんです」と語っている。
日本の将棋界でも、昨年のデビュー以来29連勝を達成した中学生棋士・藤井聡太四段は、1年前から将棋ソフトを活用している。それが強い要因のひとつではないかといわれている。ソフトは1手ごとに先手後手のどちらがどのくらい有利かを数値で示すが、藤井四段はこれを参考にしているそうだ。実際に、藤井四段は「ソフトを繰り返し使うことで、特定の局面がどちらがいいかを判断する力は磨かれていったと思う」とコメントしている。これは、アルファ碁の強化学習の仕組みと似ている。
人間にはさまざまな認知バイアスがある。本連載では、脳の記憶容量の制限から生まれるバイアスが中心になったが、感情に影響される認知バイアスもある。感情がないコンピュータは、その弱点をカバーして正しい判断に導いてくれるだろう。人間もAIと、米SFテレビドラマ『スタートレック』のカーク艦長とミスター・スポックのような関係になれれば、これまでの何十万年の進化の歴史でしてきたように、また大きな困難を乗り越えることができるようになるのではないだろうか。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家)