また、映画完成前からワイドショーを騒がせしてしまった清水富美加(現在は千眼美子と改名)だが、彼女が演じるヒロインのトーカも人を喰らうことでしか生きる術を持たないグールの哀しみをきちんと醸し出しており、巷では食人としての設定をかなり忌み嫌い、悩んでいたと報道されたりもしたが、それが本当だとしたら、逆にその苦境をバネにしての好演であったと讃えていいとも思うし、そもそも『仮面ライダーフォーゼ』(11~12年)はともかく、映画『HK 変態仮面』2部作(13&16年)ヒロインなど体を張った役どころを果敢にこなしてきた彼女ゆえ、本当にこの役が嫌だったのかと疑問に思ってしまうほどであった。
逆に、カネキを最初に喰らおうとするリゼ役の蒼井優の切れっぷりや、飄々としたイメージを逆手に取ったCCG捜査官・真戸役の大泉洋もノリノリの怪演であったが、グールの隠れ家的存在の喫茶店あんていくの店長・吉村役の村井國夫のさりげない存在感に、この作品に潜むハートの温かさを感じた。
また『東京喰種』はTVアニメシリーズ化(14~15年)が先になされており、そちらもかなりのハイクオリティを保持しているのだが、それゆえに実写版は原作漫画ファンとアニメファンの、微妙に異なったこだわりの視線にさらされる運命にもある(たとえば実写版『銀魂』は、私の周りではアニメ・ファンの評価が高く、原作漫画ファンの評価は低い)。
しかし実写版『東京喰種』は漫画とアニメ、双方のファンの支持を大方得られると見た。それはやはり原作の世界観を違和感なく実写世界に再現することに心を砕き、それなりの成果が画から醸し出されているからに他ならない。さすがにグールの捕食器官・赫子を用いたバトル・シーンなどCG臭が否めない部分もあり、それは今後の課題かとも思われたが、それを補って余りあるのがドン・デイヴィスの音楽で、『マトリックス』3部作で知られる才人をハリウッドから招いての成果は十二分にもたらされていた。
『東京喰種』の根底に流れるものは、人の形をしながらも人を喰らわざるを得ないグールの“異形の哀しみ”という、これまで『サイボーグ009』『デビルマン』など日本の漫画やアニメで幾度も綴られてきたテーマであるが、そのモチーフを映画でも決しておろそかにせず大事にしながら取り組んだことが栄光の要因ではないだろうか。
このスタッフ、このキャストならば、続編も見てみたいと思う(さすがに清水富美加だけは代えざるを得ないけど。でも、ならば誰が良いのだろう?)。
(文=増當竜也)