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現役マネージャーが語る、芸能ニュース“裏のウラ”第39回

貧困なる日本芸能界…佐藤健、神木隆之介の独立…二階堂ふみ、宮崎あおいの社内独立の背景

文=芸能吉之助/芸能マネージャー

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 どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。

【前々回】【前回】の本連載では、日本の芸能界で売れっ子となった役者さんが、その自分の売れ方に見合った適切な収入を得てウハウハな生活を送るには、純粋な役者業だけではとてもわりに合わず、ギャラのよいCM仕事をせざるを得ない、しかしそのためには品行方正なプライベートを送らねばならず、そのためにこそ日本の「大手芸能プロ」の存在意義がある。だからこそ、大手芸能プロを辞めてしまうと、なかなかそれまで通りの活動をしてそれに見合った収入を得ていくのは難しくなっていく……なんてお話をしました。

 さて、こうした日本のこれに対し、欧米……特にハリウッドをトップにピラミッド構造を成すアメリカの芸能界は、まったく様相が異なります。

 アメリカでは、ハリウッド映画やケーブルテレビの人気ドラマの主役をはるような世界的な知名度を誇る役者は、基本的に「役者」です。彼ら彼女らが自国のCMに出ることは絶対にない……とまではいいませんが極めてレアなことであって、CMに出るのは基本的に“モデルさん”レベルの方々です。日本でも、タレントの知名度頼りではなく雰囲気重視のCMなどで、名もない役者さん、モデルさんが“イメージモデル”的に出演している例も多いですが、あれに近いイメージですね。要はアメリカでは、売れっ子役者が有名企業のCMにバンバン出ている……なんていう状況はあり得ないことなんです。

 それはなぜか?

【前々回】【前回】の記事を読んでくださった賢明なる読者のみなさんなら、おわかりいただけますよね。そう、売れっ子になりさえすれば、役者だけで十分すぎるほど“稼げる”からです。

 その理由としてまず挙げられるのは、「市場規模が巨大だ」ということでしょう。なんてったってハリウッド映画をはじめアメリカのエンタメ産業は世界市場が相手。せいぜい東アジア圏で一部の“日本好き”に愛好されている以外は基本的には国内市場が相手の日本の映画・ドラマ業界とは、市場のデカさが違いますよね。

「ハリウッド映画はアメリカのヘゲモニーを世界中に広めるための“先遣隊”の役割を果たしている」……なんていい方も大まじめにされるくらいですから、「世界中でいかにビジネスを展開し、マネタイズするか」ということに関して、ハリウッド映画は長い歴史を有しています。そんな業界のなかでトップをはるレベルの役者さんですから、そりゃあギャランティもいいよね、ということです。

 それからもちろん、エンタメ業界の人々がきちんとリスペクトされている……という歴史的・文化的背景も大きいでしょうね。このコロナ禍においても、休業要請や補償金の問題に関して、日本政府によるエンタメ業界の軽視がしばしば問題視されていますが、日本ではどうしても「芸能の人々はしょせん“河原の者”」といったような蔑視の視線が、どこかにまだ残っている気がします。

 対して欧米におけるエンタメ業界は、「人々をエンカレッジ、エンターテインしてくれる尊敬すべき人々」という認識が強いといいますから、「その分、そこで働く人々には対価もきちんと支払おうよ」という意識が一般的で、だからこそギャランティがいい、ということはあるでしょうね。何度もいいますが、それは“売れっ子ならば”ですよ。売れてない役者が貧乏なのは、洋の東西を問わずどこでも同じです(笑)。

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大ヒット映画『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』で約21億円のギャラを得たともいわれている、主演のドウェイン・ジョンソン(写真左上)。アメリカでは、売れっ子役者がプライベートを犠牲にしてまで広告仕事をやる必要などないのだ。画像は、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパンから2020年に発売された同作品DVD(AmazonDVDコレクション)のジャケット。

アメリカで100年近い歴史を持つ「俳優の労働組合」が、役者の権利と収入を保証してきたという事実

 それから、米俳優界において役者さんが受け取るギャランティが高額なことの、よりリアリスティックな要因として、実はアメリカの俳優業界は「労働組合がきわめて強い力を持っているから」という点が挙げられると思います。

 アメリカには、88年の歴史を持つ「全米俳優組合」(SAG-AFTRA)という組織があって、組合員数は約16万人にも上ります。もともとは1933年に設立された「全米映画俳優組合」(SAG/スクリーン・アクターズ・ギルド)という組織だったのですが、2012年に「米国テレビ・ラジオ芸能人組合」と合併し、現在の形になりました。

 そもそもが大手の映画制作会社からの搾取に対して俳優の権利を守るために設立された組織なので、組合員である俳優が役者仕事をする場合には、制作会社側との間でギャラや労働時間、移動手段、違反時の罰金などを細かく定めた労働協約を結ぶことが義務づけられており、きちんとしたギャランティが支払われることがルールとして確立されているわけです。組合員の出演作品がDVD化やネット配信された場合には二次利用料が入り続けますし、年金や医療保険もあるという充実ぶりなんですね。

 米Forbes誌による「世界で最も稼ぐ俳優ランキング」の2020年度版で1位に輝いたドウェイン・ジョンソンの年収は、なんと約93億円だとか。彼は2019年公開の大ヒット映画『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』で、約21億円のギャラを得たともいわれています。

 ちなみにトランプ前米大統領は、映画やリアリティーショーなどに出演していたこともあって、長らくこの組合員で、2019年には年金として約7万8000ドル(約840万円)が支払われたそうです。トランプ氏はさまざまな問題発言などが規約違反にあたるとして今年、組合から除名処分されてしまいましたが、それでも年金は支払われるというのですから驚きですよね。

 というわけで、上に述べたようなさまざまな背景によってアメリカでは、売れっ子にはセレブ生活が送れるほどの高額収入(あるいは売れっ子でなくてもある程度の金額)が保証されており、ゆえに売れっ子役者がわざわざプライベートを犠牲にしてまで広告仕事をやる必要などない(それとは別に、アメリカは契約&訴訟社会なので、広告仕事をやる際のリスクに関して、日本とは大きく感覚が違うということもあるように思います。向こうの感覚だと、「企業のイメージを背負うなんてそんなリスキーなことできないよ」ということなのでしょう)。

 ゆえに、売れっ子役者が所属プロダクションに対し「プライベートを管理してもらう」とか「マスコミから守ってもらう」という感覚はなくて、もしそれを必要とするならば自身の身内や関係者をプライベート・マネージャーとして雇ったり、メディアコントロールに長けたPRのプロを雇うのが普通です。というか大物になればなるほど、むしろちょっとしたゴシップは“売名のためにも大歓迎”くらいの勢いですよね(笑)。

 だからアメリカでは、役者はドライな関係の“エージェント”にビジネス上の窓口的な役割だけを担ってもらえればよい、ということになるわけです。いやー、なんだか日米芸能界の構造比較を壮大に展開してしまいましたね……(笑)。

佐藤健、神木隆之介らの“独立戦法”、二階堂ふみ、宮崎あおいらの“社内独立”という戦法

 こうした彼我の違いに業を煮やしたのでしょう、数年前にトライストーン・エンタテイメント所属の小栗旬くんが「日本でも役者の労働組合を作ろう」と立ち上がり、俳優仲間に呼びかけたりメディアのインタビューに答えたりしていたこともありましたよね。

 しかし本稿でこれまで見てきた通り、日米のこうした違いは、歴史的・文化的、そして構造的な背景があって生じているものなので、「日本の役者の組合をつくる」といったって、なかなかハードルが高い。事実、最近は小栗くんもそうした主張を声高にすることはなくなってしまいましたよね。

 で、ここで、【前々編】の冒頭で述べた、佐藤健くんや神木隆之介くんによる、大手芸能プロ・アミューズからの独立の話に帰ってくるんです。いやー長かった(笑)。

 日本の芸能界のこうした構造的事情を理解している大手有名プロ所属の役者さんが、それでも「もっと自分の好きなことを、自由にやってみたい」と考えたときに、さてどうするか。揉めて辞めたり、安易にフリーになるのは、売れっ子時代の収入を維持するという観点から見れば危険だ……ということは、これまでの説明でご理解いただけましたよね? では、そうならないためのクレバーなやり方は? そう、「それまで所属していた大手プロのデキるマネージャーさんと一緒に、円満に独立する」という方法です。これがまさに、佐藤健くんや神木隆之介くんが採った手法なんですね。彼らは、デビュー当初からの彼らを知るアミューズの敏腕マネージャーとして知られた(辞める直前には役員でした)千葉伸大さんとともに独立したんです。独立後の社名は、「株式会社Co-LaVo」というらしいですね。

 大手芸能プロで敏腕で鳴らした人の人的ネットワークをフル活用し、しかも円満退社することによって前所属プロとの関係も良好だから地上波テレビや大手配給の映画から排除されることもない、しかも組織としては小規模な個人事務所程度の規模になるから、自分のやりたいことも以前以上に自由にできるようになる。

 こうすれば、地上波の連ドラなどにはこれまで通り出演し続けて知名度を落とさず、敏腕マネージャー(独立後は“敏腕社長”になるわけですが)のコネクションで新規の仕事や広告仕事もきちんと取ってこれる。だから収入も落ちない。にもかかわらず、以前よりは自由に仕事ができる。これが、日本の芸能界において日本の役者さんがとり得る、最もクレバーな大手芸能プロからの独立方法だと思います。

 実際、昔からみんなそうやってきたんですよ。ジャニーズ事務所だってもともとは渡辺プロダクションの系列から始まった会社ですし、スターダストプロモーションの代表・細野義朗さんだってもとは長良プロダクションにいた方。そもそも佐藤健くんや神木隆之介くんが今回退社したアミューズの創業者の大里洋吉さんだって、もともとは渡辺プロダクションにいた方ですからね。日本の大手・中堅の芸能プロは、そうやって“枝分かれ”して始まった会社ばっかり。そういうところもまた、“ヤクザな業界”と揶揄されるゆえんではあるのでしょうが……。

 ちなみに、「大手芸能プロからの独立」とまではいかなくても、「社内で事実上の独立状態を勝ち取る」という手法もあります。大手芸能プロの“威光”は保持しつつ、ある程度自由な仕事選びという“裁量権”は確保する……というやり方ですね。

 ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)所属の二階堂ふみちゃんは事実上そういう立ち位置らしいですし、数年前にちょっとしたお家騒動で宮崎あおいちゃん、多部未華子ちゃん、松岡茉優ちゃんがヒラタオフィスから移籍した“系列事務所”ヒラタインターナショナルは事実上、ヒラタオフィスからの独立事務所的な意味合いが強いといいます。旧所属プロのメンツをつぶさないため、一応“系列事務所”という形を採っているわけですね。うーん、やはり芸能界ってヤクザな業界だ……(笑)。

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山田孝之主演で話題となったドラマ『全裸監督』。地上波テレビ以外のフィールドでも、同作品のような良質なドラマが作られるようになれば、日本の役者もアメリカのように、プライベートに制約が出てくるような広告仕事をあえてする必要などなくなるのかもしれない。(画像は、定額制動画配信サービスNetflix公式サイトより)

『全裸監督』や『今際の国のアリス』はまだ、日本の芸能界を変えるほどのビッグヒットにはなっていない

 さてさて、ドラマといえば地上波テレビというイメージがまだまだ強い日本ですが、最近ではNetflixで、山田孝之くんが主演した『全裸監督』、山﨑賢人くん・土屋太鳳ちゃんのW主演で話題となった『今際の国のアリス』などがヒットし、地上波テレビ以外のフィールドでも良質なドラマが作られるようになってきました。

 例えば今後そうした作品がもっと増えていき、海外展開も成功させうまくビッグビジネスにつながるような結果を残し、そしてその結果、役者さん方がお芝居のギャラだけで十分な高収入を得られる環境が日本の芸能界においても生み出されていけば……。

 そうなれば、日本の役者さんが、プライベートに制約が出てくるような広告仕事をあえてする必要などなくなり、結果として売れっ子役者さんは大手芸能プロからどんどん独立していき、日本の芸能界のシステムが大変革してアメリカ型の“エージェント方式”に移行していく……なんてこともあり得るかもしれません。

 ただ、実際のところ、国内外で誰もが知っているような規模で大ヒットを記録した日本のオリジナル配信作品は、今のところまだない……といっても過言ではないでしょう。となれば現状はやはり、売れっ子役者さんの主戦場は地上波テレビのドラマや大手配給会社が手がける大作映画だけ、という状況に大きな変化はないでしょう。

 ということはやはり、ブレイクを果たした役者さんがその活躍に見合った収入を手にしたいと考えた場合、CM仕事はやらざるを得ない。その結果として役者さんは大手芸能プロに在籍し続けるほうがラク……という状況は、まだしばらくは変わらないと思いますね。

(構成=田口るい)

【前々回「連ドラ主演クラスでギャラ2千万円の“安さ”を考える…芸能人が不倫で謝罪する本当のワケ」】

【前回「満島ひかりの“自由さ”から考える、日本の芸能界が俳優に強いる“不自由さ”という問題」】

芸能吉之助/芸能マネージャー

芸能吉之助/芸能マネージャー

弱小芸能プロダクション“X”の代表を務める、30代後半の現役芸能マネージャー。趣味は食べ歩きで、出没エリアは四谷・荒木町。座右の銘は「転がる石には苔が生えぬ」。

Twitter:@gei_kichinosuke

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