ごく一部の人たちから見れば、小説を出版し、その作品のドラマ化も実現した私は、成功していると見られている側面があるかもしれない。
だが、それはあくまで一部の意見で、一方では、私のことをまったく認めていない人間もいる。それは他ではない私自身だ。
なぜならば、自分自身を客観的に見たときに、すごいと感じられるところがないのである。
自分のことを認めてやろうとすればするほど、ストレスが蓄積され、常に葛藤がつきまとってくる。
たいした人間でないということは、私が一番理解しているからこそ、自分で自分に「オレはすごいんだ!」と言い聞かせ、常にモチベーションを保たなければならない。本当に成功している人間は、そんなことを言う必要はないだろう。
テレビの出演する仕事は、1年以上前から断り始めた。単純に目立つことが嫌だからだ。それでもテレビ以外の媒体に露出しているのは、自分の作品である本を売るため。ただそれだけのことである。
ずっと思い描いていた未来があった。
大晦日には炬燵に入って、年越し蕎麦を食べ、みかんでも食べながら、紅白を観る。私はそんな暮らしに憧れていた。しかし気がつけば、憧れとは随分と逆行しているのではないかと考えさせられることが多い。
本当に私は、今の自分が理想だったのだろうか。
自分の思い通りにはいかないのは、世の常なのかもしれない。
ただお陰さまで、すべてを犠牲にしてでも、これだけはやり遂げてみせると情熱を燃やした『ムショぼけ』は、ドラマ、小説ともに現在も好評で、特にドラマはNetflixなどでの配信が盛り上がっている最中だ。そして、3月下旬には、小説『ムショぼけ2〜陣内宗介まだボケています〜』(サイゾー)が出版される。
それにとどまらず、小説『ムショぼけ3』の連載もすでに決まっているので、その作業も進めているところだ。
そして、秋に出版される小説はドラマ化が決定しており、そちらも動き始めている。
小説家を志し、ペンを握った20年前の私は、こうした状況に置かれた今の私に何と言うのだろうか。
単純に「すごいやん!」と、今の自分の気持も知らずに大はしゃぎしてみせそうで、怖い気もしないでもない。
ただ私も曲がりなりにも、プロとしての自覚はある。自信だってもちろんある。それがなければ、20年も書き続けてはいられないだろう。
私も年を取ったということだろうか。早く私自身が本心から「よくがんばったな」と自分自身に言ってやりたい。
今作で13作目である。毎回のことだが、売れたらよいなと思っている。小説『ムショぼけ2』、手にとった人にクスッと笑ってもらえればよいなと思っている。
そして、次に発売される小説……今年も熱い夏になりそうである。
(文=沖田臥竜/作家)
●『ムショぼけ2〜陣内宗介まだボケています〜』
4年間の獄中生活を経て出所した元ヤクザ・陣内宗介は、社会や文化、そして友人や家族の変化に惑わされる、まさに『ムショぼけ』状態だった――。
しかし、宗介は持ち前の侠気と愛される人柄で奮闘。怒りと笑いと涙が飛び交う日々の中、家族も仲間も、そして宗介自身も、どんな時代でも変わらぬ「大事なもの」と向き合いつつ、成長していくのだった。名優・北村有起哉さんの初主演ドラマとしても高い評価を得た『ムショぼけ』(2021年10月~12月/ACBほかで放送)。現在、NetflixやU-NEXTなどの配信での再生も好調で、SNS上にも多くのコメントが寄せられている。
本書は、そんなドラマ『ムショぼけ』の「その後」を、原作者・沖田臥竜が描き下ろした快作。さらに、『ムショぼけ』誕生までの裏側を綴ったエッセイの数々も収録。
定価:本体1200円+税/発売:サイゾー
3月下旬発売/amazonで予約受付中