“代表作”との出会いが待たれる吉高由里子
メインで脚本を担当するのは奥寺佐渡子。2011年に公開された映画『八日目の蝉』や、2014年公開の『バンクーバーの朝日』など、映画を主戦場としてきた作家だが、最近になってテレビドラマ業界に本格参戦。『Nのために』(TBS系、2014年)、『リバース』(TBS系、2017年)など湊かなえ原作のドラマを担当し、その重厚なストーリーテリングには定評がある。あるテレビ局のプロデューサーはこう語る。
「奥寺さんは、湊かなえ原作ドラマなどミステリーの見せ方が非常にうまい。『わたし、定時で帰ります。』でも、ヒロインを陰ながら応援する謎の引きこもり青年の正体を中盤まで引っ張り、さらりと伏線を回収してみせたのはお見事でした。また、単なるお仕事モノで終わらず、“女性が働く”というテーマを複合的に描き出し、ヒロインへの共感度を桁違いに上げることに成功しています。そもそも吉高さんが所属するアミューズは、脚本をしっかり吟味することでも知られる芸能プロ。そのことが、所属タレントの出演作が結果的に成功することにつながることが多い。ドラマの仕上がりを見ても、タレントサイドともいいディスカッションができているように思いますね」
吉高は現在30歳。そろそろ代表作といわれる作品と出会いたいところだが……。ある芸能関係者は次のように語る。
「吉高さんには相変わらず映画やドラマのオファーが殺到していますが、器用になんでもこなしてしまうところが、逆に弱点になってしまっているのかもしれません。ジャニーズ俳優の恋人役もうまくやれるし、コメディからシリアスまでなんでもナチュラルにこなせるため、存在感がやや希薄というか、代表作といえるような作品にまだ出会えていないのも事実。
なので今後は、米倉涼子さんのようなパンチのある芝居でヒットドラマを狙うか、あるいは大竹しのぶさんのような演技派女優でいくか……いまはちょうど分岐点にいるのかもしれませんね。とはいえ、もはやドラマで圧倒的な視聴率を稼げるような時代でもないので、今のところはコンスタントに1年に1本程度の主演作をドラマでこなしつつ、映画女優としてヒット作を狙っているところなのではないでしょうか」
定時に帰ってのんびりとドラマを視聴するような“OL”的な存在は過去のものとなってしまったこの時代。誰もが認める演技派女優といえども、芸能界を生き抜くには、“わかりやすい代表作”との出会いが必要とされるのかもしれない。
(文=藤原三星)藤原三星(ふじわら・さんせい)
ドラマ評論家・コメンテーター・脚本家・コピーライターなど、エンタメ業界に潜伏すること15年。独自の人脈で半歩踏み込んだ芸能記事を中心に量産中。<twitter:@samsungfujiwara>