グループリーグ突破の五輪代表に吹く追い風を分析
白夜書房
どんな分野の戦いにおいても、勝利のために戦機をつかむことは欠かせない。そのために準備をするわけだが、好むと好まざるに関わらず、流れは変わったりする。時には一つの勝敗が、“戦場に吹く風”を敵にも、味方にもするのだ。
ロンドン五輪男子サッカー、スペインは優勝候補筆頭と目されていた。同国の代表チームは欧州王者、世界王者に君臨し、無敵艦隊の称号を恣にしている。各年代のタイトルも総なめ状態で、FCバルセロナ、レアル・マドリッドは世界の頂点を常に争うメガクラブだ。
それだけに彼らは、「日本? ずいぶん、成長したらしいじゃないか」と日本フットボールを認めるような発言をしながら、心の中では「ひよっこに負けるはずがない」と見下ろしていた。事実、マスコミは日本人選手の名前をろくに覚えず、関塚隆監督が審判の名前になったスポーツ紙もあるなど、各紙の記述は適当この上なかった。侮った雰囲気は、選手にも通底していた。
その結果、日本戦のスペインからは戸惑いと苛立ちがはっきりと見て取れ、余裕がなかった。混乱の中でCKから失点した後は、無理矢理に攻めかけてボールを失い続けた。研究不足から永井の走力に面食らったイゴール・マルティネスは哀れ。一発退場により数的不利の戦いを強いられると最後まで有効な攻め手がなかった。0-1のスコアはむしろもっけの幸いで、大敗もあり得た。
日本戦に敗れた彼らは、完全に“風を敵にしていた”。
第2戦のホンジュラス戦は24本のシュートを乱れ打ちしながら一度もネットを揺らせず、0-1と連敗。PKが見過ごされる疑惑の判定もあったものの、慢心した王者は逆風に苛まれ、戦う前に敗れていたのだ。
一方、日本は風を味方にした。
乾坤一擲の勝負で挑んだスペイン戦。永井、清武、大津、東の4人は、相手にプレッシャーをかけ続け、自由にボールを持たせなかった。
「ゾンビのように走り続けた」と関係者を驚嘆させ、“想定外の戦術”で心理面の打撃を与えたのだ。