このところたったひとつの世界経済のけん引役と目されている米国経済を、再びリーマンショックの悪夢が襲うのではないか――。今、専門家の間で米国経済のリスクとしてにわかに注目を集め始めているのが、自動車を担保にしたサブプライムローンだ。あのリーマンショックの引き金となり、いくつもの金融機関を壊滅させたサブプライムローンの融資対象を、住宅から自動車に替えた低所得者向けのローンである。
今月に入って、最も保守的で手堅い経営戦略をとる銀行の一つとして名高いウェルズ・ファーゴが、この自動車サブプライムローン市場を抑制する方針を打ち出して、我が世の春を謳歌していた米自動車業界に衝撃が走る一幕があった。八方塞がりの日本経済や高値警戒感が強まる国内株式市場を引っ張る大黒柱と期待されていた米国経済に、“異変のタネ”が存在することが浮き彫りになった格好だけに、日本も決して無関心ではいられない。
「私にはなんの問題も見当たらない。あなたも考えてみてほしい。自動車業界は過去10年間に3.5兆ドル分の車を売って自動車ローンを組んできた。その間、8000億ドルだった未払い残高は9000億ドルに、つまり、わずか1000億ドル増えただけだ。しかも、未払いといっても、消費者の多くが月々の返済額を抑えるため、6年とか7年の長期のローンを組むようになったから未払い残高が増えているだけであり、焦げ付いているわけでもなんでもない」
誠実なビジネスマンという服装に身を包み、冷静な口調で「今すぐローンを組めなくなるわけではないので落ち着いてほしい」と視聴者に語りかけたのは、米大手自動車ディーラーチェーン「AutoNation」のCEO(最高経営責任者)であるマイク・ジャクソン氏だ。米東部時間の先週水曜日(3月4日)朝、経済ニュース専門チャンネルであるCNBCのテレビ番組に出演した時のことである。ジャクソン氏は、「自動車サブプライムローンが、リーマンショックの再来になるのではないか」という人々の不安の火消しに躍起だったのだ。
ジャクソン氏が番組に出ることになった発端は、米紙ニューヨーク・タイムズが3月1日付で報じた『Wells Fargo Puts a Ceiling on Subprime Auto Loans(ウェルズ・ファーゴが自動車サブプライムローンに上限を設定)』というニュースである。同記事によると、ウェルズ・ファーゴはサブプライムローン市場にオーバーヒート(過熱)の兆候があるとみており、サブプライム(低所得者)層に貸し出す融資額に細かく上限を設けたのだ。このうち、自動車サブプライムローンの場合は、組成額を自動車ローン全体(昨年は299億ドル)の10%に制限するという。
ウェルズ・ファーゴは、米国の金融機関の中で最もリスク管理に長けた銀行の一つとして有名だ。日本の金融機関でも、常にその戦略を分析対象にしているところが少なくないと聞く。それゆえ、ウェルズ・ファーゴの決定に他行も追随するのではないか、との見方が、あっという間に全米に広がった。そして、ジャクソン氏が火消しに躍起になるような事態が勃発したのである。