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日向咲嗣『「無知税」回避術 可処分所得が倍増するお金の常識と盲点』第13回

首都圏で1千万円以下の戸建住宅が続出、新築も投げ売りで1千万円台の価格破壊

文=日向咲嗣/フリーライター
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 千葉県491件、埼玉県334件、神奈川県154件、東京都49件……リクルートが運営する不動産情報サイト「スーモ」で、1000万円未満の中古一戸建住宅を検索すると、首都圏で1000件を超える物件が売りに出されていることがわかる。1000万円前後の物件の大半は築30年超だが、実際の成約例をみると、驚くほど築年数の低い掘り出し物もある。

市価の半値で買える訳アリ物件

 埼玉県に住むHさんも、そんな掘り出し物を見つけた一人である。Hさんは、不動産情報サイトを検索していて、自宅近所で売りに出されている比較的新しい中古戸建て物件を発見した。築10年の4LDK(土地130平米、建物85平米)で、販売価格は1380万円と格安。新築時には、3000万円はゆうに超えていたであろう物件だ。

「見るだけならタダ」と思い不動産業者に問い合わせたところ、安い理由が判明した。所有者が住宅ローンの返済を長期間滞納したため、近く競売にかけられる予定の物件だという。競売にかけられると、かなり安く落札される恐れがあるため、競売前に一般の市場へ売りに出したのだ。いわゆる「任意売却物件」である。

 家の中を見せてもらったところ、壁などところどころ細かな汚れ・破損はあるが、全体的にはまだきれいで、新築時の余韻が残っている。特にキッチンやバス・トイレなど水回りは、数十年前の物件に比べると格段に使いやすい仕様になっている。外観もタイル貼りふうのサイディングが施されており、低廉な価格の建売住宅よりはるかに見栄えが良かった。

 営業マンは、「もし気に入っていただけたのなら、価格交渉します」と言う。Hさんは期待せずに思い切って「1000万円で」と言ってみた。そんな安さは話にならないと突っぱねられるかと覚悟していたHさんだったが、意外にも営業マンは「わかりました。交渉してみます」と受け入れた。

 それでも、すでに破格とも思える1380万円の物件が、簡単に安くなることはないだろうと期待半分、あきらめ半分といった心持ちで待ったところ、数日後、営業マンから「1000万円は無理でしたが、1100万円ではどうでしょうか」と連絡が入った。

 1380万円でも安いと思っていたHさんにとって、異論があろうはずはない。快諾したが、さらに数日後、「1100万円で、売り主は売却を承諾されました。ただし、引越代をプラスしてほしいとのことです」と打診されたが、Hさんにしてみれば、20~30万円の引越代を上乗せするくらいは、断る理由にならず、売買の話はトントン拍子に進んだ。

 ところが、いよいよ契約締結という段になり、突然、白紙撤回された。

「申し訳ありません。債権者である金融機関担当者の承認が取れませんでした。もちろん、事前に内諾は得ていたのですが、1100万円では競売にかけたほうがいいと方針転換されてしまいました」

 これが任意売却物件の怖いところでもある。いくら売り主が承諾しても、貸したお金を1円でも多く回収したいという債権者がノーと言えば、従わざるを得ないのである。

インサイダー情報を得た競売に参加

 人間の心理というのは不思議なもので、最初は、「安く買えればラッキー」という程度の軽い気持ちのHさんだったが、一度購入するつもりになった物件が手に入らないとなると、「なんとしても手に入れたい」と思うようになってきた。

 そこでHさんは思い切って競売に参加することにした。裁判所のホームページで根気よく探していたところ、あの物件が競売に出された。裁判所がつけた売却基準価額(その8割以上で入札可能)は800万円。その2割の「買受申出保証額」を現金で納めることができれば、誰でも競売に参加できる。

 一般的な競売物件は内見ができず、裁判所の開示情報から判断するしかない。どんな占有者がいるのか、明け渡しに応じるか、ヤバイ筋の人が占有している可能性もある。不透明な部分が多く、そのリスクを承知で入札に参加しなければならないのだが、Hさんの場合は、任意売却時に内見も済ませており、所有者がごく普通の人であることもわかっている。

 そこでHさんは、裁判所に160万円を振り込んだうえで開札結果を待った。数週間後、開札日に緊張しながら裁判所の競売ページにアクセスしたところ、結果は残念ながらHさんがつけた1200万円よりも、わずか5万円高く入札していた人物が落札した。

 2度あることは3度ある。Hさんが数カ月後に不動産情報サイトを検索していたところ、落札を逃した物件が再度売りに出ているのを発見したのである。

 落札していたのは地場の不動産業者だったらしく、競売で仕入れた物件に少し手を加えて転売していたのである。その価格は、落札額よりも700万円近く高い1890万円。「一部クロスを張り替えた程度でそんなに高くなるとは、おいしい商売だな」と驚いたHさんだったが、話はそう単純ではなかった。

 その近所にパワービルダーの新築物件が次々と建築され、いつまでたっても例の物件は売れずに不動産情報サイトに掲載され続けていた。さらに、2000万円台で売り出されていたパワービルダーの新築物件が次々と値下げを断行し、最終の1棟に至っては投げ売り状態の1680万円となってしまった。

 こうなると、中古物件を落札した不動産業者は、落札した時と同じくらいの値段にしないと売れないだろう。つまり、赤字は避けられない。

「落札できなくてよかった」と胸を撫で下ろしたHさんは、身をもって“不動産デフレ”の怖さを思い知ったのである。
(文=日向咲嗣/フリーライター)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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