ビジネスジャーナル > ライフニュース > 膨張するアフリカが人類に変革
NEW
江上隆夫「ブランド戦略ディレクターのぷらっと未来散歩」

膨張するアフリカ かつてないまったく新しい大きな変革を、人類にもたらす

文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター
膨張するアフリカ かつてないまったく新しい大きな変革を、人類にもたらすの画像1アフリカのトーキングドラム(下、「Thinkstock」より)

 不思議なことに50年、100年スパンで見ると未来への大きな流れは変わりません。しかし、その流れの過程では、小さく渦巻いたり、突然支流が生じたり、停滞したり、一筋縄ではいきません。広告やブランドという常に半歩先、一歩先を見る仕事を長年続け、コンセプト関連の著作もあるブランド戦略ディレクターの江上隆夫氏が、自身のアンテナに引っかかってくる未来の種を「短期、長期の本質的な視点」を織り交ぜながら解説します。

私たちの古典的アフリカイメージ

 私が時々お世話になる横浜の胃腸科医院は、院長が大のアフリカ好きでカメラマニアです。医院の待合場所の壁にはキリン、ライオン、チータ、サイなどのアフリカを代表する動物の巨大なプリントが掲げられています。ここにマサイの戦士の写真でもあろうものなら、私たちの古典的なアフリカイメージは一瞬にして完成するのではないでしょうか。

 この原稿を書いている時点で、知人のクリエイティブディレクターがCMの撮影のため、エチオピアに滞在しています。南京虫の恐怖におびえながら、彼がフェイスブックにアップする写真は、私の古典的アフリカイメージを裏切りません。それは「巨大な辺境」というイメージです。

膨張するアフリカ かつてないまったく新しい大きな変革を、人類にもたらすの画像2『無印良品の「あれ」は決して安くないのに なぜ飛ぶように売れるのか?』(江上隆夫/SBクリエイティブ)

 残念ながら私自身はアフリカ大陸に足を踏み入れたことはありません。大学時代に、文化人類学者であり言語学者の西江雅之さん(残念なことに先日6月14日にお亡くなりになったそうです。合掌)のファンとなり、彼が記すアフリカの普通の生活を文章で垣間見たりすることで想像するのみでした。そこで描かれているのは、どこか牧歌的でありながら、逞しく生活する町の娼婦だったり、小商いをする商人です。

未来への可能性(1):広大さ、多様性、人口

 そうしたアフリカ像も急速に変化しています。まず、その前に押さえておかなければならないのが、アフリカの広大さと多様性でしょう。アフリカ大陸はアメリカ、インド、中国、ヨーロッパ、アルゼンチン、ニュージランドがすっぽりと入る大きさなのです。ひとくちにアフリカといっても、とてつもない広さを持っており、そこに56の国々がひしめいているのです。つまり、アジアと同様あるいは以上に多様な背景を持った地域の集まりという認識を前提にしなければなりません。

 もうひとつ未来への視点で忘れてはならないのが人口増加です。アメリカは移民などの影響で増加していますが、先進国はほとんどの地域で人口増が止まっています。日本が最たるものです。この先、100年単位で見ると人口が増え続ける地域は、唯一アフリカのみなのです。

 アフリカの人口は現在11億人台。21世紀中にわたって人口増が続き、今世紀末には現在の4倍近くに当たる42億人前後になると推定されています。アジアも増加基調ですが、35年後の2050年におよそ52億人になり、あとはなだらかに落ちていきます。アジアではインドが比較的長い間人口増が続き、65年の16.5億人でピークを迎えます。中国のピークはかなり早く10年後の25年時点の14.5億人前後で、その後はなだらかに減少していきます。東アジア儒教圏が大発展を遂げるのはここ20年ほど。その後、文明発展の重心はインドなどの西アジアへ移っていき、さらにアフリカへと展開していくはずです。

 人口動態は、その地域の発展性をかなり正確に映し出します。人口増は人口ボーナスを導き出すからです。人口が増える地域は、エネルギー、社会インフラ、商業活動全般が急激に活性化し、経済が発展します。日本は、第二次世界大戦後からバブルの90年前後まで、この人口ボーナスの恩恵を受けました。

 では、アフリカはどうでしょう。50年代以降、多くの国が旧宗主国から独立しましたが、現在でも多くの国が政治の混乱、独裁、部族間の対立などの問題を抱え、発展のブレーキを踏んでいます。戦後の日本やドイツは、エネルギー、物流、教育、法制度、政治など、人材も含め、成長するための社会的な土台がしっかり整っていたからこそ、奇跡の復興をなし得ることができました。

 宗教問題、エボラ出血熱などの伝染病、インフラの極端な未整備その他、アフリカは大きな問題を抱えています。こうしたことを考えると、いくら人口ボーナスがあろうが、混乱を抱えたまま停滞する可能性もゼロではありません。

 しかし、私は楽観的です。なぜなら「アフリカ的なるもの」(「古代社会の思考とエネルギー」と言い換えてもいいかもしれません)は、大きな変革期にある人類の社会に、まったく新しい価値をもたらす可能性が高いからです。それは、西洋も東洋も生み出し得ないものになるのではないかと予想されます。

未来への可能性(2):無文字社会の伝統

 アフリカ、特にサハラ砂漠以南は、無文字社会の伝統が今でも強い地域です。無文字であるがゆえに人と人の濃い結びつきや独自の音楽、コミュニケーションの文化を生み出してきました。

 例えば現代のポピュラー音楽、ジャズ、ロック、ポップスの源泉であるブルース音階。あの独特の音階は、奴隷の供給地であった西アフリカに起源を持つといわれています。私たちが親しんでいる音楽のベースにはアフリカがあります。トーキングドラムという楽器をご存じでしょうか。話す太鼓。文字通り離れた地域の住民と直接会話するための楽器です。ドラム両側の皮を張る紐を腕で押さえたり緩めたりすることで、いろいろなピッチの音を出し、まるで話しているかのように演奏することができます。

 アフリカのある部族は音楽的な素養が非常に高く、幼少時から高度な音楽に馴染んでいるので、自然に15歳くらいまでには日本のトップジャズミュージシャンである渡辺貞夫さんレベルに達してしまう、と何かの本で読んだことがあります。

 こうした感覚的に高度な文化的素養、それもコミュニケーション領域での素養が、今までにないイノベーションを起こす培地になるのではないかと考えています。日本の精緻な手仕事と美意識の伝統が、80年代に世界最高峰の電子立国を可能としたように、アフリカ的なコミュニケーションの発想と素養が、最新のテクノロジーや仕組みと結びつく可能性もあります。

 インターネットは、最終的には全人類的なコミュニケーション促進のために生まれたテクノロジーとして完成されていきます。アフリカ的感性は音楽の進化で欠かせないものとなったように、コミュニケーション進化においても大きな役割を果たすのではないでしょうか。

 無文字社会、音楽とコミュニケーション、野生と都市などアフリカを想起させるキーワードには、西欧やアジアにはない価値観が息づいています。この文化としての大きな違いが、実はアフリカの最大の資源ではないかと考えています。

 では次回は、将来アフリカが世界の経済や文化の中心地になる可能性について考えていきたいと思います。
(文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター)

江上隆夫

江上隆夫

ブランド戦略ディレクター(有限会社ココカラ代表取締役/ブランドカンパニーラボ主宰)。大手広告代理店でクリエイターとして広告制作からブランド構築までの仕事に携わる。2005年独立後も広告やブランド構築から商品・事業開発、講演・セミナーなど幅広い分野で活躍中。著書:『無印良品の「あれ」は決して安くないのになぜ飛ぶように売れるのか?』(SBクリエイティブ)。受賞歴:朝日広告賞、日経広告賞グランプリ、日経金融新聞広告賞最高賞、東京コピーライターズクラブ新人賞ほか 所属:イノベーションデザイン協会理事/(財)ブランド・マネージャー認定協会アドバイザー/東京コピーライターズクラブ会員

ブランドカンパニーラボ

膨張するアフリカ かつてないまったく新しい大きな変革を、人類にもたらすのページです。ビジネスジャーナルは、ライフ、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!