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江上隆夫「ブランド戦略ディレクターのぷらっと未来散歩」

超先進国化するアフリカ 世界経済の中心地になる

文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター
超先進国化するアフリカ 世界経済の中心地になるの画像1『世界へはみ出す』(金城拓真/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 不思議なことに50年、100年スパンで見ると、未来への大きな流れは変わりません。しかし、その流れの過程では、小さく渦巻いたり、突然支流が生じたり、停滞したり、一筋縄ではいきません。広告やブランドという常に半歩先、一歩先を見る仕事を長年続け、コンセプト関連の著作もあるブランド戦略ディレクターの江上隆夫氏が、自身のアンテナに引っかかってくる未来の種を「短期、長期の本質的な視点」を織り交ぜながら解説します。

 本連載前回記事では、アフリカに根付く感覚的に高度な文化的素養、それもコミュニケーション領域での素養が、大きな変革期にある人類の社会に今までにないイノベーションを起こす培地になる可能性について、「広大さ」「多様性」「人口」「無文字社会の伝統」の観点より検証しました。本稿では引き続き、将来アフリカが世界の経済や文化の中心地になる可能性について考えていきたいと思います。

未来への可能性(3):インフラの未整備

 アフリカが他地域と比較してアドバンテージになるのは、インフラの未整備です。整備ではなく、未整備です。現代のテクノロジーは、どのようなテクノロジーも「軽薄短小」さらに「クラウド」「パーソナル」「劇的な低価格」へと進んでいます。

 先進国には旧来の20世紀的な重厚長大なインフラとそれを支える産業・企業があるために、変化を促されなければ最新の設備に変化していきません。しかし、インフラが整っていない国ほど、インターネットやモバイル、3Dプリンタなどの環境について最先端のものを導入することができます。例えば、携帯電話インフラをいきなり最新のLTE方式で普及させることができるのです。

 そして、インフラが整っていないがゆえに、面白いことが起こります。

 2007年にケニアから広がりつつある携帯電話を使った「M-Pesa」というモバイルマネー。通常私たちが利用するモバイルマネーは、銀行口座などなんらかの決済口座に必ず紐づけられていますが、M-Pesaにはこうした口座は不要です。携帯電話にそのまま口座を開設できるのです。これは銀行の仕組みやネットワークが発達していないことによります。

 もともと、M-Pesaは携帯電話の通話時間ポイントをお金の代用としたのが始まりだといいます。これだと手数料もかからず、どれほど遠方にいても気軽にお金の代わりとして決済のやり取りができます。その後、ケニアの通信会社が仕組み化し、さらに10年に南アフリカのVodacomが参画して大きく広がりだしました。最近ではアフガニスタン、インド、ルーマニアまで利用地域が拡大しています。

始まっている“ラフに、タフに、楽しむ”日本人の挑戦

 人類発祥の地であり、いまだ古代社会からの文化が底流にあるアフリカ。アフリカの人たちを見ていると、この大地が人類にとってエネルギー保管庫の役割を果たしているのではないかと感じます。そして、アフリカで活躍する日本人は少ないながらも着実に存在します。

 津梁(しんりょう)貿易を経営する金城拓真さんは、07年にアフリカへの中古車輸出事業をスタートさせ、アフリカ6カ国で数十社300億円の一大企業群を4年でつくってしまいました。最も成功したジャパニーズアフリカンといわれています。

 金城氏は自著『世界へはみ出す』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)内で、韓国留学時にたまたまアフリカへの中古車輸出で3000万円の利益を出し、就職に失敗したところから、アフリカという未知の世界への挑戦が始まったと明かしています。面白いのは、いわゆる「グローバルで活躍するエリート」とは180度違う彼の人間像です。ラフで、タフで、めげない。ホットで思いがあり、何事も楽しんでいる。効率と結果だけを追い求める人間ではなかったことが、敵対するビジネスのライバルから命を狙われるなど「なんでもアリ」のアフリカで大成功を収めた原因ではないでしょうか。とても公務員が夢だった人間だとは信じられません。

 エリートでなかった沖縄育ちの彼が培った「アフリカ的な感性」、つまり「仲間を大切に、ラフに、タフに、楽しむ気持ち」がこれまでも、これからも、世界へ飛び出していくための鍵だということがわかります

 チャレンジしている若者は金城さんだけではありません。先日テレビでも特集されていた陶山茂樹さん率いるDigital Gridは、ケニアに支店を置き、途上国・新興国向けにオフグリッドソリューション事業(未電化地域向けの小口電力販売事業)を行っています。地方の小売店で携帯電話やラジオの充電を請け負う事業です。

 電気のない地域の小さなよろず屋のような店先に、小型プリンタほどの大きさのチャージャーボックスを置き、ソーラーパネルで充電します。このボックスはモバイルマネーのプリペイド金額に応じて、電気を量り売りするわけです。自分が持っている携帯電話やスマホへの充電。さらにはランタンやタブレット、充電式ラジオの貸出なども行っています。多少の手間はありますが、電気のない村でも電波は届いているので世界とつながることができます。シンプルな仕組みで、時宜を得たビジネスではないでしょうか(http://www.digitalgrid.com/)。

 もちろん、こうした起業家だけはなく、青年海外協力隊や国連などの組織に属する若者もアフリカで活躍しています。私にも一人、ナイジェリアで現地の人々とエネルギービジネスを始めている友人がいます。ナイジェリアにはエボラ出血熱やイスラム過激派ボコ・ハラムの存在など問題が山積しており、危険度が高い国として知られていますが、撤退する気配はありません。

 100年後、アフリカが世界の経済や文化の中心地になる。そうしたことがないとは誰にも言えません。

「次の時代を担うものは思いがけないところから、まったく予想もしていなかったかたちで現れる」

 最後にミュージシャンの故・大瀧詠一さんが語った言葉を置いて、この稿を終わりたいと思います。
(文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター)

江上隆夫

江上隆夫

ブランド戦略ディレクター(有限会社ココカラ代表取締役/ブランドカンパニーラボ主宰)。大手広告代理店でクリエイターとして広告制作からブランド構築までの仕事に携わる。2005年独立後も広告やブランド構築から商品・事業開発、講演・セミナーなど幅広い分野で活躍中。著書:『無印良品の「あれ」は決して安くないのになぜ飛ぶように売れるのか?』(SBクリエイティブ)。受賞歴:朝日広告賞、日経広告賞グランプリ、日経金融新聞広告賞最高賞、東京コピーライターズクラブ新人賞ほか 所属:イノベーションデザイン協会理事/(財)ブランド・マネージャー認定協会アドバイザー/東京コピーライターズクラブ会員

ブランドカンパニーラボ

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