「小中学校からはみ出す子を出さないことにより、足立区は文化的・教育熱心な街というイメージが広がりました。そうしたことが大学の誘致にもつながり、区内には大学が増えたのです。また、大学が増えたことで若い世代が街を歩くようになり、それが地元経済に好影響を与え、地域振興にも結び付いています」(同)
また、足立区のおいしい給食では地元産食材、地元で加工された食品を積極的に使っているので、地産地消にも結び付く。そのため、おいしい給食は足立区の地場産業を守る役割も果たしている。
他の自治体も模倣
今後、足立区のおいしい給食で育った世代が社会人になっていくわけだが、足立区は社会人になった世代にも、おいしい給食の取り組みをつなげようとしている。
「最近、日本人の成人は塩分摂取量が多いことが指摘されています。そのため、足立区のおいしい給食では減塩メニューにも取り組みます。小中学生のうちに塩分の濃い食事に慣れてしまうと、社会人になってから減塩メニューを受け付けなくなるからです。
減塩メニューに取り組むことで、小中学生の食生活が改善され、数十年後には区全体の食生活も変わります。これにより区民が健康的な生活を送れるようになり、ひいては医療費や社会保障費の削減にもつながることになるでしょう。かなり壮大なプランのように思えるかもしれませんが、こうした取り組みの一つひとつの積み重ねが街を変えていくのです」(同)
足立区のおいしい給食は評判を呼び、レシピが単行本化もされた。それらはベストセラーにもなり、視察に来る自治体も相次いだ。足立区を模倣するようにレシピブックを出版する自治体も続出している。
全国を見渡せば、小学校は給食でも中学校は弁当持参という自治体は少なくない。しかし、一人親や夫婦共働きの世帯が増えた現在、早朝に弁当をつくって子供を送り出すことができる家庭ばかりではない。そのため、学校給食の重要性が再認識されている。
食育という言葉も定着し、食事は単に「空腹を満たす」「栄養を補給する」というだけの行為ではなくなっている。おいしい給食は「食育」のみならず、区政に大きな影響を及ぼす政策にもなり始めた。それらを早くから実践した足立区は、まさに時代を先取りしていたといえるだろう。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)