6月9日、JR京浜東北線の車内でタブレット端末の使用をめぐり、71歳の男が50代の男性を刃渡り17センチの包丁で脅す事件が起きている。もちろん、車内は騒然となり、電車は緊急停止した。幸いけが人は出なかったが、多くの乗客が線路に降りて避難するなど、約3万5000人の足に影響を及ぼした。
9月26日には、東京メトロ有楽町駅の構内で、64歳の男がベビーカーに乗っていた1歳の男児の頭を殴る事件が発生した。男は、警察の取り調べに対して「ベビーカーが邪魔だったから」と供述しているが、その程度の理由で無抵抗の幼児に暴行を働く行為は、還暦を過ぎた大人のものとは思えない。
さらに10月には、東京都世田谷区の路上で78歳の男が喫茶店店員の20代女性にラブレターを渡し、読まずに返されたことで「ぶっ殺してやる!」などと脅す事件が発生している。老楽の恋自体は非難されるべきものではないが、好意を受け入れられなかったからといって殺意を抱くというのは、常軌を逸しているといえる。
医療の発達や食生活の欧米化が原因?
暴走老人や高齢者の犯罪が急増している背景には、どういった理由があるのだろうか。老人による社会問題が専門のジャーナリストは、その理由をこう語る。
「以前からいわれていることですが、まず一番大きな問題として、社会全体の高齢化が挙げられます。そして、医療の発達や食生活の欧米化により、昔に比べて体力的に元気な高齢者が増えたことも大きいでしょう」
高齢者たちは頭も体もまだまだ元気な一方、社会には彼らが活躍できる場はほとんどなく、まだ衰えていない体力やスキルを生かすことができない。その結果、毎日を悶々と無為に過ごしている老人は、かなり多いという。そして、積もりに積もった鬱屈した感情がささいなきっかけで爆発、とんでもない事件が起きてしまうようだ。
中国の思想家・孔子の言葉に「七十にして心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」というものがある。「人間は、70歳にもなれば、心の思うままに行動しても、物事の規範から外れるようなことはなくなる」という意味だ。もし、今の世に孔子がいたら、感情の赴くままに暴走する老人たちを見て、どう思うだろうか。
(文=西山大樹/清談社)