インフルエンザ、「ゾフルーザ」使用で耐性ウイルス拡大の恐れ…専門家「小児への投与は慎重に」
11月25日付の科学誌「ネイチャーマイクロバイオロジー」で発表された東京大学チームの研究は、今シーズンのインフルエンザ治療に警鐘を鳴らすものといえる。
これまでのメーカーなどの見解によると、特定の薬が効かなくなる“耐性ウイルス”は、感染力は弱いとされてきた。しかし、東京大学の研究では、昨年から人気が高まっているインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」の耐性ウイルスは、通常のウイルスと同程度の感染力があり、症状が重くなる可能性があるという。つまり、ゾフルーザを服用して耐性ウイルスが出現すれば、ヒトからヒトへと感染し、耐性ウイルスの感染が拡大する恐れがあるのだ。
インフルエンザの本格的な流行時期はこれからだ。耐性ウイルスとは、どんなものなのか。日本感染症学会インフルエンザ委員会の石田直委員長に話を聞いた。
「ウイルスは、自身の遺伝子情報のコピーを繰り返し、細胞の中で増えていきます。しかし、必ずミスコピーが生まれます。ミスコピーにより変異を起こしたウイルスは、免疫機能がしっかりしていれば抑えられますが、幼児や高齢者では増殖してしまう傾向にあります」(石田直委員長)
そのミスコピーされたウイルスが耐性ウイルスとなるのか。
「ゾフルーザはその効果が早く、大半のインフルエンザウイルスの増殖を抑えます。しかし、ミスコピーとなったウイルスはゾフルーザが効かない耐性ウイルスであり、増殖する傾向にあり、問題視されています」(同)
ゾフルーザが耐性ウイルスをつくるのではなく、耐性ウイルスが増殖する環境をつくってしまうと理解していいだろう。しかしながら、ゾフルーザ服用により耐性ウイルスが発生する可能性があることは事実であり、しかも今回の東大研究チームの発表では、さらに耐性ウイルスの感染力が強いことが示された。インフルエンザの治療で気をつけるべきことは何か。
「ゾフルーザを使うなということではなく、慎重に使うべきだと思います。特に小児への投与は慎重にすべきです。既存のほかのインフルエンザ治療薬を含め、早期に使用することが重症化を防ぐには重要だと思います」(同)
健常な成人では、自然治癒でもよいという意見を持つ医師もいるが、石田氏は違った考えを持つ。
「インフルエンザ罹患早期には、誰が重症化するかわかりません。2009年の新型インフルエンザのパンデミックでは、日本はすべからく広くインフルエンザ治療薬を使用したため、諸外国に比べ重症化が少なくすみました」(同)
当時の統計を見ると、諸外国に比べ日本の新型インフルエンザによる死亡者数は圧倒的に少なく、インフルエンザの早期治療は重症化予防に有効であることが証明されたといえる。
ゾフルーザ耐性ウイルスの感染が広がった場合、理論上はゾフルーザ以外の既存のインフルンザ治療薬は効果があると考えられる。インフルエンザを疑う症状があれば、早期に医療機関を受診し、重症化および感染拡大防止に努めてほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)