クリスマスや年末年始を迎えパーティーなどが続くこの時期には、シャンパンやワインで乾杯することも多くなる。
ところで、皆さんはワイングラスを持つ際、どの部分を持っているだろうか?
グラスの脚を持つのはマナー違反?
日本では、ワイングラスの脚、「ステム」と呼ばれる部分を持つというマナーが広く浸透している。ステムを持つのは、手の温度がグラスのワインに伝わって温度を上昇させないため、もしくはワインの味や香りを損なわないためというのが、その主な理由とされている。実際にソムリエは、ステムや底のプレート部分を持つ。
これは、ワインの色や様子をよく観察し、香りや味を微細に判断するためで、ボウルの部分を手で持っていてはその妨げになるからである。ワインをテイスティングする際にステムを持つのは、理にかなった持ち方なのだ。
こうしたソムリエの様子や理由と日本人の生真面目さが相まって、「ワイングラスはステムを持つのがマナー」と日本では、広く浸透したと思われる。
しかし、海外の映画やドラマの乾杯シーンなどでは、ステムではなくボウルの部分を演者が持っていることが多い。見ていて気になったことがある人も、いるのではないだろうか。
欧米では、ワイングラスを持つとき、ボウルの部分を持つ人が多い。英国のエリザベス女王など、各国要人の公式晩餐会の様子を見ても、ボウルの部分を持っている人が大多数だ。
マナーは思いやり
こうした現状をうけて、最近はワイングラスの正しい持ち方として、ボウルの部分を持つのが正式マナーという説が少しずつ広がってきている。
では、なぜ公式晩餐会でグラスのボウル部分を持っている人が多いのか?
筆者が感銘を受けた、あるソムリエの意見を紹介したい。
乾杯をするときは、相手にグラスを向けて動かすため、不安定なグラスの持ち方をしていると、相手にグラスの中身がかかってしまう恐れがある。食事の最中も、同席者と楽しい時間を過ごすためには、なるべくグラスの中身をこぼさないように、グラスは安定した持ち方をしたほうが良い。
グラスのかたちにもよるが、一般的なワイングラスやシャンパングラスならば、脚の細い部分よりボウルの部分をしっかり持ったほうが安定性は高い。
マナーとは、同席する人たちへの思いやりから生まれるものであるというのが彼の考えである。
実はワイングラスの持ち方について、「こうでなければいけない」という正解はない。グラスの形や状況によって、その場にふさわしい持ち方は変わる。ただ、常に周りへの配慮を忘れないことこそが、身につけておくべき大人のテーブルマナーといえるだろう。
(文=安中千絵/管理栄養士、フードコーディネーター)