早期の認知機能異常者の大部分は「進行しない」?放置でも問題なし、進行はわずか数パーセント
認知症を早期発見したほうがいいと勘違いする背景には、早期発見の必要条件を知らないというだけでなく、さらにさまざまな状況がある。そのひとつに、早期の認知機能異常者を放っておいたときにどうなるかについて、よく知られていないという現実がある。
この「放っておいたときにどうなるか」というのは、疾患の予後や自然歴についてだが、多くの人が勘違いをしている。どんな勘違いか、ここではたと立ち止まって考えてみていただきたい。
実はこのことは、本連載の前々回記事で少し触れたのだが、覚えておられる方はいるだろうか。
多くの人は、早期の認知症を放っておくと、すべての人が進行した末期の認知症になると思っているのではないだろうか。しかし実際はそうではない。それを明確に示す論文がある。
この論文によれば、軽度の認知機能異常者のうち進行するのは、一般的な住民集団では年率数パーセントにすぎず、10年たっても末期の認知症に進行するどころか、大部分の人はほとんど変わらないという結果なのである。
こういう研究は、早期の認知機能異常者を何もせずに追跡して初めて明らかになる。「そんな早期の認知症かもしれない人を放っておくなんてできない」と思われるかもしれないが、放っておかなければ、本当にその人が進行した認知症になるかどうかわからない。進行したら大変だというのは、単なる思い込みにすぎないかもしれないのである。
そこで、実際に早期の認知機能異常者を放っておいてどうなるかをみた41の研究結果を統合したところ、なんと大部分は進行しないことがわかったのである。
早期発見の必要条件も満たさないなか、放っておいても大部分は進行しない早期の認知機能異常者の発見に、多くのコストや労力を注入することはやめるべきである。国も都道府県もおかしい。
まずやるべきは、早期ではないすでに明らかに認知症になった人の支援ではないだろうか。国や都道府県に向けて、まず言いたいのはそのことである。
(文=名郷直樹/武蔵国分寺公園クリニック)