家に大量の残薬、さらに病院で大量処方…深刻化する残薬問題、どう解消?
本連載前回記事では、医療業界が抱える残薬の問題について考察したが、今回は実際に在宅訪問を行うなかでの事例や方針について考えてみたい。
在宅訪問時の残薬チェックの効果
現在、残薬チェックを行うことで下記のような効果を実感している。
・廃棄薬や重複処方が減る
「定期処方を受けている薬が、まだ実は大量にある」「名前が違うだけで、同種の薬効の薬がたくさんある」といった状況に気づき、対処することができる。
・残薬を発見することで、飲んでいない理由を聞くきっかけになる
飲みにくい、味が苦手、気分が悪くなる、朝は体調が悪い、皮膚が弱いといった情報を家族や医療関係者と共有することで、適切な治療につながるケースも多数存在する。
・上記の内容を把握することで患者とのコミュニケーションが拡大し、信頼関係を向上できる。また、医師との連携も向上し、患者の円滑な治療に結びついていく
【実際に遭遇・対応した事例】
(1)一包化(服用時ごとに複数の種類の薬を同封する行為)の薬剤処方、病院で90日分の処方というかたちから、診療所通院に変わったタイミングで1週間分に変更
来局した高齢者から「自宅に大量の薬がある」との話を聞いたので、次回来局時に持参してもらったところ、実に紙袋に満杯という量であった。患者は「私は90日分の処方で、ずっと変わっていない。もう20年ぐらい続いている」と言う。そこで薬局から医師に連絡をとったところ、医師自身はとくに意識をしておらず、「過去の薬がそれほど残っているのであれば、1週間分の処方で結構です」ということで処方量変更になった。なお、患者に説明をしたが、問題なく納得した。
なお、当該事例は、その薬局に勤務する薬剤師にとっては、実に「初めて知った患者宅の残薬の現実」であった。これは、まだ薬剤師の間で服薬指導や残薬に関する意識が不足していることの現れである。
(2)ビタミン剤の処方を整理する
アリナミンなどのビタミン剤は、習慣的にDO処方(前回と同じ薬の処方)される場合が多い。しかし、患者の服薬状況を確認し、体調の良し悪しや残薬の有無に応じて、処方量を調整する必要がある。
実際、分3(1日3回、朝食・昼食・夕食時に2錠ずつ服用)で1日6錠であった処方を、分2(1日2回の服用)で1日4錠に変更し、14日分の処方を7日分に変更したといった事例は多数存在する。そういった際には、患者に説明をし、納得のうえで医師に連絡をとっているが、医師自身も「あ、そうかそうか」とあまり抵抗なく処方変更に応じる場合がほとんどである。
薬局では、患者が薬を要望したとしても、薬剤師の判断で止める場合がある。もちろん医師への確認ならびに患者への説明を伴うわけであるが、このような事例は着実に増えている。基本的には、医師の確認がとれれば良いことなので、こういった意識や取り組みを推進し、拡大していきたい。
ちなみに、「この患者は、必要な薬が実は7種類くらい出ていて、日数を全部チェックして日数をバラバラにしたりしています」などと非常に丁寧に仕事をする薬剤師もいる。そういった薬剤師が存在することは、とても頼もしいことである。
また、長野県や佐賀県、奈良県の大和郡山市など、地域を挙げて取り組みを強化しているケースも増えてきているようで、今後そういった地域が広がることを期待し、また応援していこうと考えている。
残薬の管理/削減手段について
現在、薬局で施設向けの調剤をしているところでは、残薬の管理と削減手段として、配薬ケースや服薬カレンダーを使用している場合が多い。患者や介護の担当者がわかりやすいように、薬剤師が薬を振り分けて個人ごとに入れる場合もあれば、介護士や看護師が振り分けを行う場合もある。
以前から西淀川区薬剤師会の取り組みでは、ビニール袋に残薬について記載したものを配布している。これを配布していると、医療機関の方からは「これどういうこと?」ということを聞かれるが、患者からは今のところ「ただの袋」としか思われていないのが現状である。
まだこの袋を使っていない薬局もあり、どの程度効果が出ているかは検証できていないが、大阪市内でもこういう活動が始まっていることを紹介しておく。
監査対策について
保険請求における監査においても、今後「在宅医療時の業務フローの整備と実行」を行うことが重視されていく。「この薬局ではどのように対応しているのか」「他職種との連携はどうしているか」など、今後確認をとられる範囲も拡大していく可能性が十分にある。そこでは、残薬確認表を訪問看護師や介護職と共有していくことが、今後絶対的に必要になってくると思われる。まずは早期からそういった取り組みを開始し、周囲の医療機関や施設に対して、きちんと連携できる関係を構築しておくべきであろう。
残薬チェックは、患者・薬剤師・医師・社会に好循環をもたらす
重要なのは端的にいうと、「患者-医療職-社会」という関係性の中で「有益なコミュニケーションがとれる」ということである。
たとえば、「いつもと同じお薬ですね、ハイ、どうぞ」といってお薬を渡すだけの薬局業務から、「家でお薬どうですか、余ってないですか?」などと質問することによって、患者との会話が発生し、情報を得ることも可能になる。
そしてその情報を医師に連絡することも可能であるし、なおかつ前述のように薬の量を減らす、残薬を減らすということにもつながっていくのである。社会自体もそういう風潮になれば良いと考える。
「時代の変化」に伴い「薬剤師の役割と責任」も変化している
時代は変化し、求められる役割と責任も変化していく。薬剤師も、従来のように薬局で待っているばかりではなく、積極的に患者と医師に対して向き合い、提案し、協力を進めていかなければならないのである。残薬チェックへの取り組みは、そういった活動の一歩を踏み出すうえでも有効な手段なのである。
(文=福井繁雄/薬剤師、一般社団法人Life Happy Well代表理事)