日本人にとって「国民食」といえるカレー。外食業界でカレー専門のチェーン店といえば「カレーハウスCoCo壱番屋」(ココイチ)が1000店舗以上を展開し、不動の1位に君臨している。2位の「ゴーゴーカレー」は100店舗にも及ばず、専門チェーン店でカレーを食べようと思うと、意外に選択肢が少ないのだ。
しかし、「専門店以外のチェーン店」に広げると、実はレベルの高い世界が広がっており、逆に選ぶのが難しい状況になってくる。そこで、カレーライターの田嶋章博氏に、非カレーチェーン店のなかで特においしいカレーが食べられる5店を教えてもらった。
「牛丼御三家」のなかで頭抜けている松屋
牛丼チェーン店の大手で「牛丼御三家」とも呼ばれる、吉野家、すき家、松屋は、ともにカレーを提供している。なかでも田嶋氏がおすすめするのは、松屋だという。
「松屋は牛丼チェーンにもかかわらず、カレーに対する圧倒的な熱量の高さを感じます。現会長のカレーに対する思い入れが並々ならぬようで、松屋とは別に『マイカリー食堂』というカレー専門のチェーン店も展開しているほどです。現在のレギュラーカレーは2019年12月より提供開始した『創業ビーフカレー』。辛さやニンニクのパンチ力は十分ながら、突出しすぎず全体が絶妙に調和しており、松屋のカレーの集大成的な一品とも言えるハイクオリティぶり。このレベルのカレーが24時間、ワンコインで食べられるのは、冷静に考えればものすごいことだと思います。カレーに困っても、とりあえず松屋さえあれば大丈夫という存在です」(田嶋氏)
新しく定番メニューに登場した「創業ビーフカレー」(並490円)に加え、期間限定で登場するカレーも個性的な仕上がりだという。
「期間限定カレーの“攻めっぷり”も松屋の特徴です。たとえば『ごろごろ煮込みチキンカレー』は具材の存在感と辛さが突出していますし、『トマトカレー』は強烈なニンニク風味が際立ち、トマトの酸味も強い本格派でした。賛否が分かれるのを恐れずに、カレーへの思いを貫く商品開発の姿勢には脱帽です。あくまでも松屋は牛丼、定食がメイン。だから、カレーに関しては会長の強いリーダーシップもあって、冒険できるのでしょう」(同)
「夏=カレー」を定着させたロイホのフェア
ファミリーレストランのロイヤルホストのカレーは、「ファミレスカレーのひとつの到達点」と田嶋氏は太鼓判を押す。
「スパイシーでありながら、誰が食べてもおいしいと思う味です。『マハラジャチキンカレー』はカルダモンの香りが立ち、玉ねぎのうまみと甘さが堪能できます。インドネシア人のコックがまかないでつくっていたものがベースになっているという『ビーフジャワカレー』も、ファミレスのカレーとは思えない本格派です。専門店ではないのにレベルの高いカレーが、しかも数種類のなかから選べるのはロイヤルホストの魅力です」(同)
ロイヤルホストは1983年から毎年、「カレーフェア」を開催している。
「今や『夏=カレー』のイメージが定着していますが、これはロイヤルホストがカレーフェアを40年近く開催し続けた功績も大きいかもしれません。フェアに合わせて開発したカレーメニューは160種類を超えているそうです。蓄積されたカレーづくりのノウハウが、レギュラーカレーのレベルの高さにも結実しているのでしょう」(同)
田嶋氏のカレーフェアのおすすめは、第1回から登場している「カシミールカレー」だという。「フェアではいつも人気上位の商品です。黒くサラサラしたルーが特徴で、スパイシーなのに日本人の舌にも合った上品な味わいです」(同)
デニーズ、かつやのカレーにも注目
ファミレスではデニーズも最近はカレーに力を入れており、2018年夏から販売されている「スパイス香るデリーチキンカレー」はマニアの間で絶賛されている。
「テーブルに置かれた瞬間に、カルダモン、シナモンなどスパイスの香りがフワッと漂い、表面に油がしっかりと分離しています。油が分離しているのは、インドカレーでは十分な火入れによりスパイスの風味がきちんと立っていることを示し、“マサラが立つ”と言ったりもするようです。プレートには副菜などの添え物は一切なく、らっきょうや福神漬けも付かない。“カレーのみの直球勝負”というストイックな姿勢にもグッときます。なんでデニーズにこんな本格派カレーがいきなり誕生したのか、カレーライターとして、ぜひとも商品開発の裏側を取材させていただきたいほどです(笑)」(同)
また、スープの専門店チェーンであるスープストックトーキョーのカレーも見逃せないという。
「スープストックは女性客がメインなので、パンチは抑え目で、一口目は少し物足りないと思ったのですが、食べているうちに味の深みが伝わってきます。たとえば、『バターチキンカレー』は専門店でもクリーミーなバター風味が強く、味が一辺倒になりがちなのですが、スープストックはしっかり酸味も感じられる。素材や製法から徹底的にこだわっているので、有名店のインスパイア商品にならずに、スープストック独自の洗練されたカレーが完成しています」(同)
そして、最後に紹介するのは、とんかつチェーン店であるかつやの「カツカレー」だ。
「かつやのカレーは、オーソドックスでサラリとしたタイプです。専門店のカツカレーは食べやすいように薄めのカツを乗せるのですが、かつやはどのカツも分厚い。それなのに油臭くなく、重くもない。カレーのベースには出汁のうまみもある。嫌なところのまったくない、『10人食べたら10人がおいしい』というカレーではないでしょうか」(同)
田嶋氏は、非専門店のカレーは味だけでなく利便性や価格、気楽さなど「総合力の高さ」が魅力だと指摘する。
「カレーは不思議な食べ物です。ひとたびカレーを食べたいと思ってしまうと、その思いを振り払えなくなりますよね。そういうときに時間や場所にこだわらずに食べられるのが、チェーン店の良さです。さらに、専門店ではないため一緒に食事をする人がカレーの気分ではなくても、ほかのメニューが充実しているので付き合ってくれます」(同)
日本人の“カレー欲”は、実は非カレーチェーン店が満たしているのかもしれない。ほかにもカレーを提供している飲食チェーン店は数多いので、積極的に挑戦して、ぜひ“掘り出し物カレー”を探し当ててみてはいかがだろうか。
(文=奥田壮/清談社)