コレステロールの高い食品は、血中コレステロール値の上昇をまねき冠動脈疾患の原因をつくるといわれ、これまでずっと濡れ衣を着せられ、悪者扱いされてきました。
たとえば、少し前までイカやタコは、コレステロールが高いので摂取量に注意するようにいわれていました。ところが、これらにはコレステロールを下げる働きのタウリンも多く含まれるので、安心して食べられるということがわかりました。
そんな状況のなか、ずっと卵はコレステロールの高い食品の代表格で、食べ過ぎはその摂り過ぎにつながり、血中コレステロール値が上がりやすくなるといわれ続けてきました。
しかし、最近になって、アメリカでは食物からのコレステロール摂取量と血液中のコレステロール値との因果関係を示す臨床結果データがないことが明らかになり、食品によるコレステロールの制限をなくすようにガイドラインが変更になりました。
日本でも、2015年の「日本人の食事摂取基準」には、「コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた」とされ、その目標量がなくなりました。
つまり、卵の摂取量と冠動脈疾患との関連は認められなくなったのです。そのため、「卵は1日に何個も食べてもよい」「1日1個なんて昔の話だ」などと、日常的にたくさん摂ることが推奨されるかのような声をよく耳にするようになりました。
では、本当に卵は1日に何個も食べてもよいのでしょうか。そして、それが健康維持につながるのでしょうか。
飽和脂肪酸の摂取量が増大
コレステロールは、体内で合成できる脂質であり、体重が50キログラムの人で600~650ミリグラム/日が生産されています。食べ物から得られたコレステロールの40~60%が体内へ吸収されますが、個人差が大きく遺伝的要因、代謝状態に影響されます。コレステロールは、カラダの細胞膜、ホルモン、ビタミンDの原料であり、カラダに必要な成分です。
そのため、細胞への補給が一定に保たれるようにコレステロールの合成量はカラダの中で調整されています。
たとえば、食べ物からのコレステロール吸収量が多い日は、肝臓でのコレステロール合成量が少なくなります。逆に、食べ物からのコレステロールの吸収量が少ない日は、肝臓でのコレステロール合成量が増えるようになります。
このカラダの仕組みから考えても、たとえコレステロールの多い卵を1日にたくさん食べて食品由来のコレステロール量が増えても、体内でトータル的に量が調整されているので問題がありません。
では、冠動脈疾患の原因をつくる血中のコレステロール値を増やす栄養成分は、なんでしょうか。
それは、飽和脂肪酸です。これは、動物由来の脂肪に比較的多く含まれ、コレステロールを増やす作用があります。コレステロールが多く含まれる食品は、比較的飽和脂肪酸も多いため、それらを摂れば摂るほど飽和脂肪酸の摂取量が増えていきます。
おすすめは1日1個
食べ物は、ひとつの栄養素のみで構成されているわけではなく、いろいろな栄養素が含まれています。卵も飽和脂肪酸を含みます。たくさん食べれば食べるほど、飽和脂肪酸の摂取量が増えていくため、血中のコレステロールが増える可能性が高くなります。卵のコレステロールが、冠動脈疾患に影響がなくても、卵の飽和脂肪酸が影響する可能性は否定できません。
また、すでに脂質異常症の方(LDLコレステロール値の高い方)は、代謝状態の懸念から、卵の摂り過ぎには注意したほうがよいと思われます。
このような理由から、筆者のおすすめは、卵は1日1個です。卵は、良質のたんぱく質源となる優秀な食品ですが、良質のたんぱく質は、肉、魚、大豆・大豆製品にも含まれています。
できれば、ひとつの食品に偏ることなく、たとえば卵は1日1個、肉や魚は1日50~100グラム、大豆・大豆製品は1日100グラム程度にするというように、いろいろな食品から少しずつ摂るように心がけることをおすすめします。
補足ですが、2015年の「日本人の食事摂取基準」には、次のようなことも記載されています。
「がんとの関連について、NIPPON DATA80で、女性において、卵を2個/日以上摂取する群(総対象者の上位1.3%)では卵を1個/日の群に比べ有意ではないが、がん死亡の相対危険が約2倍になっていた」
冠動脈疾患の視点では、卵の摂取量は問題ありませんが、他の疾患との関連は未知数とも考えられます。
過ぎたるは及ばざるがごとし、木を見て森を見ない的な食品の摂り方に注意したいものです。卵は、1日1個程度とし、バランスのよい食事をしましょう。
(文=森由香子/管理栄養士)