免疫力をあげる食事について
新型コロナウイルスが猛威をふるっています。私たちが新型コロナウイルスをはじめ、インフルエンザ、風邪、その他の感染症などにできるだけ罹らないためには、また、罹っても軽く済ませるためには、普段からどのような点に注意していけばよいのか、管理栄養士の視点から考えてみたいと思います。
私たちの身体には、細菌やウイルスの侵入を防御する免疫機能が備わっています。その免疫機能をいつでも十分に発揮できる体制を整えておくことが大事であることは、いうまでもありません。
免疫機能に関わっているのが、自律神経と白血球です。白血球は血液に含まれる成分の一つで、細菌やウイルスなどの外敵を排除する役割があります。自律神経は、交感神経と副交感神経の2種類があり、活動時、緊張時に優位に働くのが交感神経、一方、副交感神経はリラックス時、睡眠時に優位に働きます。
白血球は自律神経によりコントロールされているため、自律神経のバランスを保つことが大事です。それには、睡眠不足にならないように、質の良い睡眠をしっかりとって生活のリズムを整えること、ストレスをコントロールすることなどが大切です。
睡眠ホルモンと呼ばれる神経伝達物質「メラトニン」には、睡眠の質を上げる作用、免疫力を高める働き、抗酸化作用があります。メラトニンは22時~2時の間に分泌が活発になります。メラトニンの恩恵を受けるためには、就寝時刻は24時前とし、7時間程度の睡眠を確保、早寝早起きを心がけましょう。
また、就寝前の飲食、飲酒は質の良い睡眠の妨げになりますので、夕食後から就寝までの4時間くらいは、水以外は何も口にしないようにすることをおすすめします。メラトニンは、必須アミノ酸のトリプトファンからストレス軽減作用のある神経伝達物質「セロトニン」を経て産生されます。トリプトファンは食品からしか摂れない成分であるため、肉、魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品などからしっかり補給していきましょう。
ほかに免疫力に非常に大きな影響を与えるのが体温です。体温が1度下がると免疫力は30%も低くなります。逆に体温が1度上がるだけで免疫力は5倍から6倍も高くなります。寝ている間、体温は下がっています。そのため朝食を摂ることは、体温を上げる意味からも必要な食事となります。食事を摂ると体が温かくなるのは、体内に吸収された糖質、脂質、タンパク質が分解されたときに産生するエネルギーの一部が体熱となって消費されるからです。免疫力アップに朝食は不可欠ですし、1日3度の食事を欠食せず、体温を下げないようにしましょう。
免疫力を向上させる栄養素
続いて免疫力を向上させる栄養素をみていきましょう。
まず、食物繊維です。小腸には免疫に関わる細胞があるため、腸内環境を整えることも重要です。免疫力を高めるには、免疫細胞の働きを活発にすることです。食物繊維の多い食品は、噛みごたえのあるものが多いのが特徴です。
きんぴらごぼうを食べている時を想像してください。必然的に噛む回数が増え、唾液がたっぷり分泌されますね。食物繊維は胃や腸で水分を吸収して膨らむことで便のカサを増やし、腸管を刺激して腸の働きを活性化させます。このような消化活動は、副交感神経が優位になり血流が良くなり白血球も増加し、免疫機能が活性化されます。
さらに、便通が良くなれば善玉菌が増え、これによっても白血球が増加し免疫力アップがさらに期待できます。食物繊維のほかに、ヨーグルトなどの発酵食品も利用しましょう。発酵過程で整腸作用のある酵素が産生され免疫力アップに貢献してくれます。
次にビタミンCです。ビタミンCは、細菌やウイルスに排除効果のある白血球や免疫系および炎症の調整をする「インターフェロン」を活性化し免疫力を高める作用があります。ある報告によると大量のビタミンCを摂取することで風邪による発熱、せきなどの症状の回復を短縮できるということです。
ビタミンCは、人は体内で合成できませんので食事から十分に補給しないといけません。水溶性のビタミンなので、余分に摂取しても2~3時間後に尿から排出されます。2020年版食事摂取基準によると、18歳以上の男女ともビタミンCの推奨量は1日100mgです。
ビタミンCは、野菜や果物、イモ類に含まれています。たとえば、ミニトマト(10個:100g)32mg、イチゴ(大粒6個:150g)で100mg、じゃがいも(卵大2個:100g)で28mg摂取できます。
ビタミンDは意識して摂取
最後に、ビタミンDです。ビタミンDは、細菌やウイルスを死滅させる「カテリジン」「β-ディフェンシン」という抗菌ペプチド(タンパク質の1種)をつくる働きがあり、皮膚のバリア機能を高めます。ビタミンDは、紫外線を浴びることで産生されますが、日照時間が短い冬はビタミンDの体内合成量が減り、抗菌ペプチドも減少すると考えられます。
例えば、茨城県のつくば(北緯36度)では、ビタミンD5.5μgを産生するために必要な日照暴露時間は、12月の12時で22.4分。7月の12時で3.5分というデータがあります。このことからも冬は産生する時間が長くかかることがわかります。
2020年版食事摂取基準によると18歳以上の男女とも目安量は1日8.5μgとされています。この8.5μgは、日常生活において可能な範囲内で適度な日光浴を心がけながら食事からビタミンDをどれぐらい摂取したらよいかの目安量となります。
ビタミンDは、鮭、卵、キクラゲなどに多く含まれます。鮭(生1切れ80g)で25.6μg、卵(1個50g)で0.9μg、乾燥キクラゲ(10個5g)で4.27μg摂取できます。注意したいのは、ビタミンDが、魚類、卵、キノコ類品など一部の食品にしか含まれていませんので積極的に摂らないと不足しがちな栄養素であることです。
新型コロナウイルスにともなう感染症を避けるには、手洗いと咳のエチケットを順守するほかに自律神経のバランスが崩れないような十分な睡眠と正しい食生活を送ることに努め、免疫力を下げないようにするしか自己防衛手段はないのかもしれません。
早寝早起き、質の良い十分な睡眠、1日3食、規則正しい時間にバランスのとれた食事をこころがけましょう。
(文=森由香子/管理栄養士)