今クール(4~6月期)の連続テレビドラマ『私結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS系、毎週金曜22時~)がジワジワと人気を広げている。中谷美紀の演じる主人公は、39歳の開業医である。
ドラマ内の彼女が結婚できない・しない理由の追究はさておき、2010年の国勢調査によれば、同ドラマの主人公と同じ年齢層(35~39歳)の女性未婚率は23.1%。これは05年の調査から4.7%も上昇した数値であり、他の年齢層を見ても、日本人の未婚・晩婚化は男女共に年々進行している。
また、50歳時で一度も結婚経験がないことを示す生涯未婚率も、近年はハイペースで増加傾向である。国立社会保障・人口問題研究所の『人口統計資料集2014年版』を参照すると、10年には男性で20.14%、女性で10.61%を記録した。
そんな生涯未婚でいる男女が増えている昨今だが、あるデータによると「独身者は既婚者に比べ、平均余命が短い」という結果が出ているというのだ。
国立社会保障・人口問題研究所が算出したところ、40歳時点で既婚者と未婚者の平均余命(1995年時点)を比較したところ、未婚者のほうが8年以上も短かったというのである。約5億人のデータを分析したという米ルイビル大学も、既婚者と独身者の平均余命には男性で8~17年、女性で7~15年の差が生じると発表している。
こうした現象は何に起因するのだろうか。株式会社ドクターズヘルスケアの代表取締役社長を務める、医学博士の矢島新子氏に見解を伺った。
独身者の寿命が短い2つの理由
「独身者は既婚者と比較すると“ヘルス・ビヘイビア”(健康に関する行動)が劣りがちになるものなのです。独身者は、外食や中食(お弁当などを購入して自宅で食べること)が中心になるなど食生活が乱れやすくなります。また、結婚している方であれば朝になって他の家族が起床すれば家庭内が活気だち、『いつまで寝てるの!』と起こされることもあるでしょう。ですが独身者の場合、休日であれば昼や夕方まで惰眠を貪るようなこともあり、生活リズムが崩れやすく、睡眠のリズムも崩れやすいもの。そういったライフスタイルでいると健康状態が悪化しやすいのです」(矢島氏)
独身者は生活習慣の質が下がってしまいやすく、それが個々の健康を左右する因子になるようだ。
矢島氏は続けて別の側面からの可能性にも言及する。
「“独身者の寿命が短い”という結果については、社会経済指標という側面からも検証する必要があると思います。実は低学歴・低収入の方は、高学歴・高収入の方と比べて寿命が短くなるというデータが確固たる事実として出ているんです。フランスやイギリスといったもともと国民の収入格差が激しい国では、何十年も前から低収入の方ほど病気の重病率や死亡率が高くなることや、寿命が短くなるといったことに関する研究が数多く進められています。日本の医療業界などでも近年になってこういった傾向について言及されるようになってきましたが、これは“独身者の寿命が短い”という事実にも関連していると考えています」(同)
低収入の人が、目先の生活費を稼ぐのに精一杯で10年先、20年先の健康を意識するほど心に余裕がないことや、実際に重病を患ってしまった際に高額な医療費が工面できないといったことは想像に難くない。
そして現在の日本は、低収入の人のほうが高収入の人と比較して、結婚して家族を持つということへのハードルが高い世の中であることはいうまでもないだろう。
つまり、「低収入者の寿命が短い」ことの結果論として、「独身者の寿命が短い」という事実があるという考え方もできるということか。
余命差は縮まってきている
冒頭で取り上げた国立社会保障・人口問題研究所の調査結果を再び見てみよう。
95年時点で独身者は既婚者に比べ、40歳時の平均余命が8年以上短かったのは確かなのだが、実は同調査をさらに40年さかのぼって確認すると、55年時点では男女共、寿命に約15年もの差がついていたのだ。要するに、独身者と既婚者の余命差は徐々に縮まっているのである。
「かつては社会的弱者といわれる層の方々は、健康サービスにアクセスしづらい状態でした。例えば『タバコは体によくない』といった情報は今ではみな当たり前のように知っている情報ですが、55年頃はそういった情報でさえ社会的弱者の方々は得にくかったということもあるでしょう。それが社会の成熟と共に社会的弱者の方々も健康につながる情報を得やすくなったため、おのずと寿命も伸びてきているのでしょう」(同)
未婚率が年々増加傾向であり、独身者の寿命が既婚者と比べると短いという事実は見過ごせるものではない。ただ、情報化社会によってどんな人でも“セルフメディケーション”、つまり自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすることができるようになったことにより、その寿命差は着実に縮まってきているようだ。
(文=森井隆二郎、昌谷大介/A4studio)