栗原心平と国分太一の絶妙な掛け合い…人気料理番組『男子ごはん』の“バディ”的魅力とは
コロナウイルス感染拡大防止のため自宅待機を余儀なくされ、ますます家事・育児に明け暮れる子持ち文筆家・森下くるみが、実生活で楽しみのひとつとする「エンタメ料理番組」からお気に入りを紹介する本連載。
第1回ではイギリス人フードライター兼料理人のレイチェル・クーさんを取り上げ、第2回は人気料理研究家のコウケンテツさんを語った。第3回は料理家の栗原心平さんが出演する、人気料理番組『男子ごはん』をご紹介する。
『男子ごはん』(テレビ東京系、毎週日曜日午前11時25分〜)は、料理研究家の栗原はるみさんを母に持ち、経営者の顔もある料理家・栗原心平さんが調理を担当し、アイドルからマルチタレントの地位を確立したTOKIOの国分太一さんがMCを務める、「これぞエンタメ!」ともいえる料理番組だ。2008年4月20日に放送開始してから早12年という長寿番組である。ちなみにこの番組は当初、料理研究家のケンタロウさんと国分さんの冠番組『太一×ケンタロウ 男子ごはん』として進行していたが、2012年にケンタロウさんが交通事故をきっかけに降板、同年8月より栗原心平さんがレギュラーとして参加し、番組タイトルが『男子ごはん』となって今に至っている。
40代・妻子持ちによる”男子高校生の部活動”のノリ
「いきましょう、せーの、『男子ごはん』!」との掛け声で始まる番組のコンセプトは、男性×レシピ×キッチントーク、と実に素直だ。そこから、「楽しい」「実用的」「美味しい」が同時に描かれていく。
お2人それぞれのキャラクターは、「淡々とした口調で、的確に調理法を伝授する職人気質な栗原さん」に対し、「料理に関しては初心者だけど、好奇心旺盛で食べるの大好きっ子な国分さん」というふうに自然と役割分担がされており、強面でややぽっちゃりな栗原さんと、童顔でシュッとした体形の国分さんのビジュアルの違いもまた、バディものの映画みたいに、お互いにない部分を補い合う構図でおもしろい。
お2人とも40代・妻子持ちなのだけれど、「イクメン」などと良いパパイメージを出さず、”男子高校生の部活動”のノリを保っているのも、この番組の魅力のひとつだ。
肝心なレシピのほうはどうかというと、たとえば2020年4月5日に放送されたのは、「新生活応援! ゆで卵からオムレツまで卵料理の基本を教えます!!」というド定番なものだった。
自炊22年選手のわたしですら、ゆで卵なんて適当な茹で時間で作る。だから、ぐらぐら茹ですぎて殻にひびが入ったり、茹でた卵の黄身の周りが黒ずんだりしてしまうことだってある。半熟卵の“正しい”作り方も知らない。料理初心者のための企画ながらも、実はわたしのように漫然と自炊してきた人への啓発が含まれているかもなぁと、卵料理の回を観て思った。
レシピには”季節”や”時期(行事など)”が積極的に取り入れられる。和洋中・エスニック・イタリアンその他とオールジャンルで、レベルも基本から中級、ちょっと技術がいるものまで四方八方に向いているが、難易度としては、クックパッドのレシピで料理を作れるならOKなくらいだろう。
国分太一と栗原心平との絶妙な掛け合い
じゃあ特にエンタメ性を感じるのはどこかというと、ひとつは「メインキャストのトーク」にある。たとえば先述の「新生活応援〜」の回の冒頭トークの一部は以下の通りだ。
国分「この4月から、僕ね、真剣に料理を学ぼうと思います!! (12年やってんのに、とばかりにスタッフ一同爆笑)本日のテーマは何になりますか? 」
栗原「本日のテーマはですね、こちらでございますね」
国分「はァ!」
栗原「(ざるに盛られた鶏卵を手に)卵でございます」
国分「……これが卵ですかぁ……!」
栗原「そこからなんですね(苦笑)」
「ゆるボケ」と「ゆるツッコミ」といったらいいのかな。さじ加減の妙だ。もちろん演出や台本はあるにしろ、冒頭や調理中、実食でのトークの掛け合いは主に国分さんが牽引しており、落語的な型がないと成しえない絶妙な合いの手と、好奇心に由来するのであろう得体のしれない愛嬌には、エンタメの神髄を感じてしまう。
ケツメイシからプリンス、マドンナまで豊富な選曲
そしてそして、『男子ごはん』のエンタメ性を高めるスパイス的なものとして一番強調したい部分が、カットのつなぎなどに挟み込まれる「BGM」だ。これは番組ファンの人たちがこぞって指摘しているので、わたしが見つけたわけではないけれど、ただね、あなどれないんですよ、選曲が。
メインの使用曲は同番組のウィキペディアにも載っているように、ジョージ・ハリスンの「セット・オン・ユー(Got My Mind Set on You)」と、ダニエル・ブーン「Beautiful Sunday」。
それ以外で卵料理の回に使われたのは、ケツメイシ「さくら」、Perfume「Spring of Life」、beastie boys「egg man」、プリンス「Just as Long as We’re Together」、マドンナ「Express Yourself」……まだまだいろいろとあるけれど、メイン含めてこの回だけで10曲以上。ちゃんと卵だ、春だ、恋だと、企画に沿って選ばれているのがわかる。
気になる楽曲があれば、音楽認識アプリ「Shazam」を立ち上げて、テレビにスマホをかざして楽曲を検索してみよう。このレシピだからこの曲なのか! と、共通点が見つかってのけぞるかもしれないし、そうならないかもしれないが……。料理と音楽の共通性はいくらでも深読みできるので、あとは各々探求していただきたいところだ。
ピエール瀧氏逮捕タイミングでの「Shangri-La」
余談だけれど、わたしは『男子ごはん』で忘れられない回がある。電気グルーヴのピエール瀧氏が逮捕された某年某日を知っている人は多いと思うが、あの翌週くらいだったか、番組のBGMに電グルの代表曲「Shangri-La」が使用されたのだ。ちょっと驚いた。BGMは番組スタッフの誰かが丁寧に集め、編集の段階で配されるはずだから、たまたま流れたのではないだろう。あのタイミングの「Shangri-La」には、さりげないメッセージが込められていたんじゃないかなぁと、今でも思う。
『男子ごはん』は、栗原さんと国分さんのキャラクター、彼らのほのぼのトーク、バラエティ豊かな実用性高いレシピで人気だ。まさにエンタメ! 番組の骨組みには、一番先に後回しにされ、安価に、適当に、雑に扱われがちな音回りのことを死ぬほど大事にしている、潜在的文化レベルの高いスタッフがいるのを、この機会に知ってもらえますように。
(文=森下くるみ)