2016年に行われた「国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、病気やけが等による自覚症状に関する質問で、腰痛を訴える人は男性で1110万人、女性で1380万人と、症状別で1位でした。ちなみに2位は肩こりで、男性680万人、女性1410万人でした。女性に関しては肩こりのほうが多いのですが、男女合わせた総合順位では腰痛が断トツの1位です。「この腰痛なんとかならないか?」と思いながら日常生活を送っている人が多いのです。
ところで「腰痛」とはどんな病気かご存知でしょうか。文字通り「腰の痛み」で、広辞苑では、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症、外傷、炎症、腫瘍によって起き、腰筋の疲労や姿勢不良によるものも多いと説明されています。セルフメディケーションで対応できるのは、腰筋の疲労や姿勢不良によるものです。それ以外の病気は専門医による治療が必要です。重いものを持つ、腰をかがめてしまうといった姿勢不良が続くと腰痛になります。
薬剤師としてドラッグストアで働いていた私は20代の頃、「若いんだから!」と重たいものを持つ作業を先輩方に押し付けられていました。粉末洗剤は一つ1.2kgですが、8個で1ケース、2ケースともなると19.2kgです。これを店内通路が狭いという理由だけで、台車なしで階段を上って3階の倉庫まで運び続けます。柔軟剤詰め替えは1個540mL であり、1ケース15個で8.1kg、それを2ケースで16.2kgです。当時の店長は2ケースしか持てない私に向かって「少ない!」と言い、仕方なく3ケース持ちます。これで腰痛にならないわけがありません。
厚生労働省の統計によると、かつての私のように「職業腰痛」になる方が腰痛全体の6割いるそうです。職業としては介護関係が1位、小売業が2位、看護関係が3位です。こうした職業腰痛は、機械や設備の導入によって人間がやらなくていい部分を増やすことで改善できます。台車とエレベーターがあれば、どれだけ腰の負担が減ったことでしょう。
シップを貼って安静にするのは時代遅れ
「2019年診療ガイドライン」(日本医療機能評価機構)では、安静よりなんらかの活動をするほうが早く治るとされています。私の職業腰痛は、ドラッグストア店員を辞めたことと筋トレで腰回りの筋肉をつけたことで完全に治っています。職業腰痛についてガイドラインでは次のように書かれています。
「急性の痛みがあっても、なるべく普段の活動性を維持することは、より早い痛みの改善につながり、休業期間の短縮とその後の再発減少にも効果的である。休業する期間が長ければ長いほど、職場復帰の可能性は低くなる」
痛みについては痛み止めを飲んだりシップを貼ったりするのが有効な治療となりますが、短期間で治療することが重要です。大抵の腰痛は2週間程度で痛みが落ち着くので、それくらいの期間で治療を終了しておくことが必要です。長引く人は「薬をやめて痛くなったらどうしよう?」と不安になったり、「痛いから安静にしなきゃ」と横になったりする人に多いです。
不安な気持ちは快楽を感じる脳内のドパミン神経系を乱れさせます。また、痛みを消す神経である下降性オピオイド神経の働きを鈍らせます。何かにぶつかった時、「痛って~」と感じてもその痛さは数分後には収まっていることがあります。それは下降性オピオイド神経が働いて痛みを消しているからです。不安な気持ちは神経の働きを悪くして、痛みを持続させます。
痛み止めを長期で使うと腎臓が悪くなる
市販の痛み止めは痛い時だけ短期間、使うように添付文書で書かれていますが、長期間使い続けると薬の効果よりも副作用の影響が大きくなります。胃が悪くなるというのは有名な副作用ですが、それ以上に気をつけなければならないのが「腎臓が悪くなる」ことです。
痛み止めは薬剤性腎障害の最も多い原因で、痛みを引き起こす物質であるプロスタグランジンの生成を抑制する作用があります。プロスタグランジンには胃や腎臓の血流をよくする作用があります。薬でそれらの作用が抑制されてしまうと、胃や腎臓の血流も悪くなります。血流が悪くなると血が通わない部分が出て、その組織は死にます。また、薬自体がアレルゲンとなり腎臓を破壊します。
腎臓は毒素を排泄し、体内の水分量を調節する臓器です。体内に水分が溜まりすぎるとむくみとしてあらわれます。排尿の量や回数が変わります。うまく濃縮できずに薄いままの尿が出て、体内の毒素が溜まってだるさを感じることがあります。腎臓でつくる造血ホルモンがなくなり、貧血にもなります。
自覚症状がなくても、血液検査をすれば腎臓が悪くなっていることがわかります。なんとなくいつもと違う症状があるときは、ためらわずに病院へ行くようにしてください。
(文=小谷寿美子/薬剤師)