医療関係者が今もっとも気にしていることのひとつが「院内感染」だ。患者にしても、病気を治すために医療機関にかかったのに、別の病気をもらってしまうことは避けたいだろう。
院内感染するのは、細菌やウイルス。細菌に関しては抗生物質が有効だが、ウイルスにはその増殖を抑えるような薬しかない。そこで、細菌やウイルスが患者とその家族にうつらないように、医療機関では建物の出入口だけでなく、病室の出入口でもアルコール消毒をするように、プッシュ式の器具が置かれている。
医師をはじめ、看護師などのスタッフは院内感染の怖さを知っているので、病室の出入りのたびに手指の消毒を行っており、携帯用のものを使う人もいる。それほど気を配っているのだが、患者やその家族はどうだろうか。
細菌やウイルスが付着した手で、ドアノブやドアハンドル(医療機関ではノブよりハンドルのほうが多い)、手すりなどを触り、そこに細菌などが付着してしまう可能性は十分にある。そこから感染することもある。
銅の力
診察室のドアハンドルや手すりなどを銅製に変えて、細菌の量を著しく減らした病院がある。ハンドルを銅製に変えることで、抗生物質も効かないMRSAという細菌をはじめ、大腸菌などの細菌を1時間後にはほとんど死滅させることができた。銅の表面では、湿度などに応じて強い酸化力を持つ物質を生じる化学反応が起こるため、そこに付着している細菌のDNAが損傷を受けて殺菌されるという。
アメリカの病院におけるデータによると、細菌などの微生物の98%(中央値)を死滅させた。細菌にいろいろな種類があり、ドアノブ、ドアハンドル、手すりなど患者や医療関係者が触るものもたくさんあるので、それぞれをチェックした値の中央値をあげている。ハンドルなどに銅を使うことで、院内感染の割合が40~70%低下したという。
銅はアルコール消毒と違って24時間続き、その効果は変わらない。日本の病院でもドアハンドルなどを銅製にして、院内感染のリスクを低減できることに手ごたえを感じている施設がある。また、ドアハンドルなどを銅製にすることで、医師や看護師の殺菌に対する共通の認識が広がったという。