地震で恐ろしい「通電火災」、ブレーカーを落とすのが鉄則…電気ストーブや電子レンジに注意
「火災旋風」とは何か、知っていますか?
オーストラリアで2019年9月に発生した大規模な森林火災では、人や財産、おびただしい数の野生動物が犠牲になりましたが、報道では火災旋風の映像も流れました。その姿は、まるで炎の竜巻、欧米では「悪魔の火」と呼ばれています。炎の温度は1000度を超え、人や物を吹き飛ばすだけでなく、その猛烈な風によって急速な延焼を引き起こします。
日本での火災旋風でよく知られているのは1923年の関東大震災で、140以上の火災旋風が目撃されています。人間や荷車、材木などを巻き上げながら2km以上もの距離を移動したケースもありました。一番の悲劇は、広場に避難した4万人に火災旋風が襲い、一瞬にして3万8000人を焼死させたことです。
火災旋風には2つのタイプがあり、火柱状の「赤い火災旋風」と、炎を含まない「黒い火災旋風」です。「黒い火災旋風」は、砂ぼこりや煙などを巻き込んで黒い渦になると考えられています。夜間だと見えにくいため、接近に気付かず、深刻な被害を引き起こします。
東日本大震災でも火災旋風が発生
あまり知られていませんが、東日本大震災でも火災旋風は発生していました。気仙沼市で市街地火災のあった未明(午前 4 時 30 分頃)、消防署員によって目撃されています。
その様子は、赤い蛇がとぐろを巻きながら、ゆっくりと回っているような姿だったといいます。証言をもとに大きさを計測したところ、その火災旋風の高さは230メートル、幅130メートル以上という、60階建てのビルに相当する巨大なものでした。避難した後ということもあり、幸い犠牲者は出ませんでした。
火災旋風を起こさないためには
火災旋風は映像も少なく、詳しいメカニズムもよくわかっていません。 起きてしまった火災旋風には、人は立ち向かうことはできません。
では、私たちができることは、なんでしょうか。それは、シンプルに「火事を起こさない」ことです。
地震発生時の出火原因は、主に2つ。地震による火事は「発生時の火事」と、「しばらく経ってからの通電火災」です。「発生時の火事」は、洗濯物にストーブの火が移ったり、破損した電化製品のショートした火花、調理中の火が原因で火事が起こります。
・火が出たら、初期消火をする。
消火は最初の3分間が勝負。消火にはやはり消火器が有効です。しかし、火が自分の背丈を超えたら、もはや素人では消火が困難ですから、急いで避難しましょう。
・「通電火災」を起こさない。
通電火災とは、地震などによる停電から復旧し‟再通電”したときに、電気ストーブやヘアドライヤーなどの熱源から広まる火災のことです。阪神淡路大震災では、通電火災が原因で多くの木造家屋が燃えました。
通電火災の原因となるものの例は、以下です。
・こたつ
・白熱電球スタンド
・電子レンジ、オーブントースター
・タコ足配線
・観賞魚用ヒーター
発熱する電化製品のほかに、配線がむき出しになった“傷ついた電気コード”など、意外なものが火元となることもあります。そのためにも、「地震が起きたらブレーカーを落として避難!」。これが鉄則となっています。忘れそうな方には、通電火災を防いでくれるアイテムもあるので、検討してもいいでしょう。大きな地震のときは、ガスは自動で止まりますが、念のため元栓を締めておきましょう。
火災旋風からどう身を守るか
もし、地震などから大規模火災が起き、「火災旋風」が発生してしまったら、私たちはどうやって逃げればよいのでしょうか。確実な対処法はありませんが、対策はあります。火災旋風からの避難は、竜巻からの避難と似ています。
・火災現場の「風下」側に行かない。火災で上がった煙の流れを見て「風下」を判断する。
・土ぼこりや煙が空に巻き上げられて、あたり一帯の空が暗くなったり、津波や大雨のような轟音が聞こえる、といった予兆に注意する。
・近くまで来てしまったときは、鉄筋コンクリート造などの頑丈な建物に避難する。飛散物から身を守るために窓ガラスなどから離れる。
大地震は、津波、土砂災害、火災など、多くの複合災害を引き起こします。火災旋風もそのひとつなのです。
(文=草野かおる/イラストレーター・防災士)
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