夏を最高にイメージさせる食品と言えば、アイスクリームと双璧をなすのがスイカです。あまり知られていないことですが、スイカはリコピンを多く含む健康食品でもあります。
お店でスイカを選ぶときは、大きさのわりにずっしりと重く、叩くと中身の詰まったような響きがするようなものを選びましょう。また、皮に黄色みがあるものは、果実の未熟なスイカに含まれる葉緑素が失われて完熟していることを意味していますので、色にも注意を払ってください。
意外!トマトよりもリコピンが豊富なスイカ
スイカはメロンの遠縁に当たる作物で、アフリカの蔓(つる)植物、学名「シトラス・ラナタス」の果実です。スーパーで私たちが買い求めるスイカは甘くておいしい品種ですが、近縁の野生のスイカは苦みが強くて食べにくい作物です。
スイカを食用にする歴史は5000年前のエジプトにまで遡り、紀元前4世紀頃にヨーロッパ・ギリシアに伝わり、そこから世界各国へ広がっていきました。スイカは蔓植物の中では特別果実が大きく、30kg以上にまで生育する品種もあります。また、果実だけでなく食用部分を構成する細胞も大きく、肉眼で見ることができますので、スイカを食べる際にはぜひ細胞の観察もしてみてください。
遠縁のメロンとスイカの最大の違いは、メロンの種子は中央に集まり、種子を包む子房壁という構造を持つのに対し、スイカはそれを持たない点にあります。これを読んでおられるビジネスパーソンが子どもの頃に食べたスイカと比べると、最近は一般に売られているスイカも種がずいぶん減っていることに気づくと思います。これは種が除去されたものではなく、実際には未発達の小さな種子を含んでいる品種で、1930年代に日本で初めてつくられた品種です。
スイカの赤い色はカロテノイド色素のリコピンによるもので、カロテノイド色素には人間の細胞を酸化による損傷から防ぐ作用があります。リコピンと言えばトマトを思い出す方が多いと思いますが、実はスイカはトマトよりも抗酸化物質が多く含まれている健康に良い食品です。
熱中症予防にもスイカが有効
熱中症を予防するためには水分摂取が重要なことはみなさんご存じと思いますが、お茶やビールは利尿作用があるため、摂取しすぎると、かえって熱中症になりやすくなることはご存じですか? 一方で、スポーツドリンクは思いのほかカロリーや糖分含量が高いため、飲みすぎると糖分の過剰摂取になってしまいます。夏の水分補給に最も理想的なのはスイカです。
スイカの90%以上は水分で、適量の糖分やカリウム・カルシウム・マグネシウムなどのミネラルも含まれています。スイカは甘いのでカロリーを気にされる方もおられると思いますが、スイカのカロリーは100gあたり37kcalしかありません。加えて、食物繊維も豊富ですので、お通じをよくする作用も期待でき、肥満を抑えつつ水分とミネラルがおいしく補給できる、夏の理想の食品です。
また、酸化的ストレスは細胞に障害を与え有害ですが、地球上の生物の中で酸化的ストレスを最も強く受けているのは植物です。植物は葉緑体で太陽の光を捉え、これを使って生育に必要な糖をつくり出しています。そのため、植物は葉をいっぱいに広げて太陽光を受ける必要がありますが、それは強烈な酸化作用を受けることでもあります。
そのため、植物は抗酸化物質を大量に生産して、高エネルギー反応により細胞やDNAが損傷を受けないように守っています。そのような天然の抗酸化物質のひとつが、スイカに豊富に含まれるリコピンです。
リコピンは鮮やかな赤色を呈する化学物質で、抗酸化作用の他にダイエット作用を持つとも言われており、毒性がないため、食品の着色料としても使用されています。
リコピンは市販のサプリメントでも摂取することができますが、注意すべき点があります。野菜や果物に含まれる抗酸化物質は植物の種類や部位によって違いがありますが、これは重要な意味を持ちます。
抗酸化物質は一般に、特定の分子(DNAなど)損傷に対して効果を持ちます。あらゆる細胞酸化に効果のある万能の抗酸化物質などは存在しません。特定の抗酸化物質だけをサプリメントで大量に摂取すれば、かえって体内の酸化・還元反応のバランスが崩れて、体に悪影響を及ぼすことになりかねません。
したがって、いくらリコピンに強い抗酸化作用があるといっても、それら数種類を含む栄養剤に依存するのではなく、多種多様な野菜や果物を食べて、さまざまな抗酸化物質を摂取するのが理想です。
おいしいスイカを食べて、不快な夏を健康に乗り切りましょう。
【参考資料】
『マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-』(共立出版/Harold McGee 著、香西みどり監訳、北山薫、北山雅彦訳)
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