今回はうつ病もどきのお話です。もどきとは、簡単な確定診断がないので、実はうつ病でない人も含まれるという意味です。高血圧は血圧計で測定すれば誰でも自分の血圧がわかります。糖尿病はヘモグロビンA1Cに注目すれば、誰もが糖尿病であることを認識できます。そして治療の経過も数字で示されるのでわかりやすいのです。
一方、うつ病の診断でよく使われるのは、以下の項目の内、5つ以上が同じ2週間に存在しているかという質問です。
・ほとんど1日中、ほとんど毎日、抑うつ気分
・ほとんど1日中、ほとんど毎日、興味や喜びの著しい減退
・ほとんど毎日、食欲の減退または増加
・ほとんど毎日、不眠または睡眠過多
・ほとんど毎日、焦燥感
・ほとんど毎日、易疲労性または気力の減退
・ほとんど毎日、無価値観
・ほとんど毎日、思考力や集中力の減退
・反復的な自殺念慮、自殺企図
どれも血圧やヘモグロビンA1Cのように客観的に数値化できません。患者さんの主観も入るでしょうし、医師の先入観も存在するかもしれません。本当のうつ病ではないのに該当すると言うこともできるでしょうし、医者が該当すると判断すればうつ病になってしまいます。
割れる意見
“非常識君”の意見です。
「あくまで仮定の話ですが、もし病気になりたい患者がいて、患者が欲しい医者がいれば、うつ病患者はどんどん生産される。大多数の専門家がうつ病には該当しないと言っても、ひとりの医師がうつ病だと診断すれば、その診断が翻ることはまずありません」
これに対し、“極論君“はこう言います。
「でも患者さんは困っているのだから、どんどん抗うつ薬を処方してもらって、休息するべきではないでしょうか」
非常識君は反論します。
「抗うつ薬は、実はほとんど効果がないという意見もあります。最近流行のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)も同様です。本当に脳内でセロトニンが不足しているのであれば、SSRIを飲んですぐにでも症状は改善しそうですが、何週間も必要です。休息を取ることとの差がどれだけあるのでしょう」
極論君の意見です。
「ストレス社会となって、本当にうつ病で困っている人は増加しています。もちろんうつ病にまで至らなくても、うつ病の手前の段階で苦労している人もいます。SSRIはうつ病以外に、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害にも保険診療での投与が認められています。そんな症状にも効くのですから、心の病にいろいろな薬がどんどん投与されることが患者さんのためにも有益だと思います」