コロナ下でも確実に儲けている企業&個人の“想像もつかない共通点”…“働き方”の概念を破る
「管理職だから会議のときだけは会社に行くが、リモートワークでも業務はほぼ完全に支障なくできている」と言うのは上場IT企業管理職の野沢拓郎さん(仮名・62歳)です。5カ所の拠点をつないで行う会議は録画され、自動的に議事録も作成されてチャットツールに保存されるので欠席者にも便利。セキュリティ対策のために声だけの電話会談なども利用し、会社訪問したときにはほかの社員たちと積極的にコミュニケーションをとるようにしているといいます。
東京都の「テレワーク導入率緊急調査結果」(5月)などの調査では、4月はテレワーク利用者が3月より2.6倍近くに増え、調査対象となった社員全体の5割を占めるほどになっています。
しかし、前出の野沢さんのようなケースだけではありません。自宅で仕事をすると非効率になる人もいるようです。育児や介護、家事などが気になり効率的に仕事がしづらいため、リモートワークは長時間働けない女性にとっては不利だと、国際通貨基金の調査でも指摘されています。
IT系の業界全体が好調という誤解
効率的にテレワークができる人が増えるよう、ハード面でのサポートも必要です。テレワーク普及で業績が伸びている企業は、IT企業、コスト削減・効率化を実施した企業、対面サービスをネットに移行した企業、EC企業などですが、実は、倒産・失業などの悪影響を最も多く受けたのもIT企業だというアンケート調査結果もあります(ゼネラルリサーチ「新型コロナウイルスによる各業界への影響調査」2020年6月8日~15日)。
2020年4-6月期のIT、電機大手の決算を見てみると、一部の企業のみ好調です。パソコン需要、スーパーコンピューター富岳などシステムプラットフォームが寄与し、ソフトウエア事業が好調な富士通は採算性も改善し純利益は増加、ソニーも巣ごもりによりゲームが堅調で純利益が50%以上増加しました。
しかし、NECは海外空港で使用されるディスプレー販売、社会公共事業、自動車機器、空調機販売が低迷、三菱電機とシャープも純利益はマイナスでした。パナソニックは車載機器や飛行機向けの娯楽システム、電気自動車テスラ向け円筒電池が落ち込み、東芝も中国向け半導体製造装置、ハードディスク納入の後れにより苦戦しています。
企業では、段階的にリモートアクセスなどの整備、セキュリティ強化、書類の電子化、システムのクラウド化が進み、システム開発や運用、ハイブリッドクラウドなどのシステム開発・運用が進んでいます。データアナリティクス、デジタルエンジニアリング、アプリケーション開発・運営などの需要が高まり、優秀な技術者がいるIT企業では成長するでしょう。
効率化、対面からオンラインへ移行した業界
企業のコスト削減、効率化を後押ししているのが、フードデリバリー業界です。出前サービスを専門に扱う出前館やウーバーイーツなどへの需要が伸びています。さらに、人件費のコスト削減や環境対策などの問題が改善されることが成長維持の鍵となります。
対面サービスをオンラインへ移行した遠隔医療、オンライン教育やフィットネス、映画から動画配信、なども需要が伸びています。なかでも遠隔医療は、多くの病院経営が赤字に陥るなか、厚労省の解禁が後押しして急成長しています。メドレーは遠隔診療システムの販売が好調、テドラック・ヘルスも売上が好調です。コロナ渦だけでなく、過疎地での医療問題の解決のためにも、遠隔医療は欠かせません。本当に必要な場所ではますます普及するはずです。
ECでは、外出せずに自宅でネットショッピングする利用者が増加したことにより、楽天、アマゾン、ヤフーショッピングの売上が増加、また日用品で法人相手のモノタロウなどの売上も伸びました。米アマゾンも売り上げを伸ばしています。しかし、楽天はEC事業は伸びましたが、5G投資や格安スマホが不調です。ZOZOはPayPayモールが好調ですがアパレル業界は低迷しています。ヨドバシカメラなど自社が運営するECサイトが好調な企業も増えており、ただプラットフォームを提供するだけのEC専門事業者の成長性は低くなるでしょう。
テレワーク時代、副業でキャリアアップへ
こうしてみてみると、必ずしもIT業界だからといって業績がよくなるとも限らないように、今後ますます成長業界の中でも勝ち負けがはっきりするでしょう。本当に必要なところに必要な人材がいる企業が成長維持につながります。これだけテレワークが浸透すると、生活スタイルも変化し、雇用の流動化も進みます。臨機応変に需要に対応できる先見の明が必要です。
観光・小売業などを中心に失業者も増加するなか、「副業」が注目されています。スウェーデンの知人は、朝は1時間、近所でヘルパーの仕事をして、自宅に戻りテレワーク、夕方は再び1時間ヘルパーの仕事をして、週末は趣味の副業で英語教師をしています。日本でもいくつかの職業を効率よく掛け持ちするのが当たり前になると思われます。そのほうが、ある業界が業績悪化で大量にリストラするとなったときに、別の業界にシフトするなどの対策がとれます。在宅ワークが進む今だからこそ、自分の興味のある副業をするチャンスです。
スマホ系
少し前までアフィリエイトなど広告関連が多かったのですが、今はアルバイトがなくなった若い人たちが、スマホだけでお金を稼いでいます。買い物のアンケートに回答したり、領収書を提示したり、モニターとしてショッピングしたり、ガチャなどのゲームをしてつく広告でポイントをもらうアプリを導入してこまめに貯めています。ポイントを貯めた後は電子マネーに移行してお金として使うことができるので、月2万円ほど貯めて食費にしている人もいます。
PCを使ったリモートでも家庭教師では時給3000円以上というケースもあり、国内外の外国人向けに時給1000円で日本語を教えている人もいます。海外旅行に行けない分、外国人との交流は気分転換にもなるでしょう。
PC使わない系
PCを使わなくても、在宅ワークの副業としては添削などの仕事も増えています。たとえば主婦が自分の子供の勉強を添削しながら、同学年の生徒のプリントを添削して、1日で数千円稼ぐケースもあります。在宅ワークが増え、ベビーシッターや家事代行を頼む育児中の女性も増えています。買い物代行や介護ヘルパーなど高齢者向けサービスは慢性的に人手不足でしたが、コロナで外出を控えている高齢者向けに需要が高まっています。宛名シールを封筒に貼り付けたり、包装、キーホルダーのホック付けなどで月5万円ほど稼いでいる主婦もいます。
しかし、どうせ副業をするなら、次に転職したい業界、興味のある業界の仕事のほうがキャリアアップにつながります。1回ずつのアルバイトですから、自分の能力を試したり、適職を試すためにも、少しでも興味のあることにトライしてみることです。
たとえば、大学病院で夜勤勤務が多かった看護師Aさんは、医療の経理処理のデータ入力を副業にしながら、医療事務の資格試験に合格しました。今は個人病院経営者のパートナーとして、医療事務の仕事をしています。海外勤務が夢だったBさんは、オンラインで日本語教師や外国人教師のアシスタントをしながら少しずつ英語を勉強しています。アロマ販売グッズの品質チェックを副業として、アロマセラピーの資格まで取得して自分で輸入し販売するまでにいたった人もいます。
コロナ禍による生活スタイルの変化を、今後のキャリアアップにうまく利用していきたいものです。
(文=柏木理佳/城西国際大学大学院准教授、生活経済ジャーナリスト)