2月1日、アメリカ化学会が発行する学術誌「Environmental Science & Technology Letters」に掲載された論文が、世界のファストフード各社に衝撃を与えている。
ファストフード店でハンバーガーやフライドポテト、チキンなどを提供する際に用いられる包装紙や紙容器の多くに、食品に染み込む危険性のある化学物質が使用されているという調査結果をアメリカの研究者が発表したのだ。
アメリカの27社のチェーン店から400ほどの包装紙や紙容器をサンプルとして調査した結果、包装紙の約半分と紙容器の2割からパーフルオロアルキル化合物(PFAS)というフッ素化合物の一種が検出されたという。食品と接触する包装紙では46%と半数近くで検出され、次いでポテトやピザに使われる厚紙は20%、ドリンク用紙容器は16%という結果だったそうだ。
同論文では、包装紙などに使われたPFASが食品に染み込んだ場合、人体にどのような影響があるかまでは言及されていないものの、過去にはPFASが各種のがんや甲状腺疾患など、免疫機能や生殖能力の低下に影響があるとする研究結果もあるという。
PFASは人体に危険?特に子供は要注意!
そもそもPFASとはどういうもので、今回の発表は何を意味するのか。新潟大学名誉教授で医学博士の岡田正彦氏に聞いた。
「PFASは、かつてはフライパンのコーティングに使用されるテフロンの製造過程で使われていたもので、水や汚れを防ぐ機能に優れていることからカーペットクリーナー、フローリングワックスなど、日用品にも広く使用されているものです。
この物質は人工的に合成されたもので、もともと自然界には存在していません。なかでも、長い鎖状につながったパーフルオロオクタン酸(PFOA)とパーフルオロオクタンスルフォン酸(PFOS)の2つは、腎臓がん、精巣がん、膵臓がん、前立腺がん、乳腺がんのリスクを高め、また低体重児、甲状腺疾患、精子減少などのリスク要因になっている、とアメリカ環境保護局(EPA)が指摘しています。【※1】
世界各国の政府も使用禁止や用途制限の措置をとっているところですが、すでに広く環境を汚染してしまっていて、人の血液中からも微量ながら検出されるというデータがあります。
その代用品として合成されているのが鎖の部分を短くしたPFASで、人体からすみやかに排出されるため安全性は高いとされていました。しかし、紙コップなどからにじみ出しやすい上、一度飲料水などを汚染してしまうと除去が難しいことがわかり、人体にとってのリスクはむしろ高いのかもしれないと考えられるようになっています。
その危険性を訴えた『ポリ-及びパーフルオロアルキル物質(PFASs)に関するマドリード声明』という発表もあり、日本でも水質調査が行われるようになりました。その結果、アメリカの環境基準は下回っていたものの、国内の多数の河川でPFASが検出されているようです。【※2】
これらの物質が世界的な関心を集めている理由は、ファストフードの包装紙や紙容器に量の多寡にかかわらず含まれているという発表が相次いでいるからです。これまでの研究によれば、化合物の鎖の長さによる違いが大きく、また包装紙と食品が接触する時間や加熱方法などによっても生体への影響が異なるようです。
これは、特に子供への影響が懸念されています。子供はファストフードをよく食べる上、化学物質の作用を受けやすいからです。これまで、アメリカ食品医薬品局(FDA)は20種類の化学物質についてフライやドーナツなど油で揚げた食品の包装紙への使用を許可してきましたが、2016年1月に環境保護団体などからの訴えもあって3種類を取り消しました」(岡田氏)