今年1月、「ウコン(クルクミン)に薬効はないという論文が発表された」という旨の記事が一部ニュースサイトに掲載され、インターネット上をにぎわせた。
事の顛末は、こうだ。健康食品などに使用されていて二日酔いに効くとされるウコンは、含有成分のクルクミンに効果があると考えられていた。しかし、米ミネソタ大学の研究チームが発表した論文では、クルクミンについて「不安定かつ科学的に反応性が高く、体内に吸収できない化合物であるため、(薬剤の開発に役立つ)可能性はきわめて低い」と記述されていたという。
また、クルクミンの化学組成は、実際はそうではないにもかかわらず、たんぱく質に作用しているかのような「False Hits(偽の結果)」をもたらす効果があるため、クルクミンの効能はプラシーボ(偽薬)効果に等しい結果というのだ。
「ウコンの力」は意味ない?ハウス食品を直撃
では、ビジネスパーソンの強い味方でもある「ウコンの力」シリーズは、飲んでも意味がないのか? 販売元のハウス食品グループに取材を申し込むと、以下のような回答があった。
「法律上、効果効能についてはお答えすることができません。ミネソタ大学の論文は、ウコンの中のクルクミンに関する研究のひとつととらえています。ハウス食品グループでは、ビサクロンを含むウコンエキスの研究を進めており、客観的な評価も受けております。なお、当社ウコン製品は安全性の確認を行っております」(ハウス食品グループ広報)
同社の公式サイトによると、「ウコンの力」シリーズはビサクロン、クルクミン、ビタミンB群4種を配合していることが明記されている。
「ウコンの力」を66本飲んでも効果なし?
また、薬剤師・栄養学博士の宇多川久美子氏は、今回の発表について以下のような見解を示す。
「まず、この論文はウコンについてではなく、ウコンに含まれるポリフェノールのひとつであるクルクミンについて論じている、ということが大前提です。
論文では、『クルクミンが人に対して有効とする科学的根拠を示す結果は出ていない』と指摘しています。その理由は、試験管内や動物実験では、がんやアルツハイマー病に対して一定の効果が出ていたものの、実際に人間にクルクミンを投与しても、試験管内や動物実験で期待されたような効果が出なかったというもの。つまり、『クルクミンは人体に吸収されにくい』という性質があるようなのです。
たとえば、アルツハイマー病に対する効果を調べた研究では、クルクミンを2g(2000mg)含むサンプルを飲んだ人と4g(4000mg)含むサンプルを飲んだ人で実験したところ、4gのほうを飲んだ人の血中にはクルクミンの成分がわずかながら検出されましたが、2gのほうを飲んだ人の血中には検出されなかったそうです」(宇多川氏)
「ウコンの力」(内容量100ml)に含まれるクルクミンの分量は30mg、「ウコンの力 スーパー」(内容量120ml)は同40mgである。実験で2g飲んでも血中にクルクミン成分が検出されないことを考えると、仮に「ウコンの力」を66本飲んで1980mgのクルクミンを摂取しても、その成分は血中に認められないことになる。
「ハウス食品グループのサイトには『ハウス食品が考えるクルクミンの一日摂取目安量は40mg』と記されており、食品安全委員会によるクルクミンの許容摂取量は体重(kg)×3mgなので、体重60kgの人の場合は180mgとなります。
先のアルツハイマー病の効果を調べた研究では2gや4gを摂取していますが、それはあくまで医薬品レベルの研究のため。しかも、2gという一般的な摂取許容量をはるかに上回る量を飲んでも、クルクミンの成分は血中に認められなかったということは、市販のウコンエキスドリンクを飲んでもクルクミンの効果を期待するのは難しいということになります。
また、この論文ではクルクミンには多くの試薬と反応しやすい性質があり、『本来は効果が出ていないのに、効果があるように出てしまうことが多いのではないか』という指摘もあります。
つまり、今まで信じられてきた『クルクミンはいろいろな病気に効果があり、万能薬になり得る』という仮説は間違っていたらしい、ということを伝えているのです。そのため、クルクミンについては、また新たな仮説を立て、一つひとつ検証していくべきではないか、ということです。
しかし、ウコンにはクルクミン以外にも多くの有効成分が含まれているので、仮にクルクミンに期待されるような効果がなかったとしても、『ウコンに効果はない』とは言えません。つまり、この論文を基に『ウコンに効果なし』と言うことはできないのです」(同)
前述したように、「ウコンの力」シリーズは有効成分としてビサクロンの配合もうたっており、ハウス食品グループによると、このビサクロンは二日酔い改善作用と肝細胞傷害抑制機能があるという。
ウコンドリンクを過信すると怖い副作用も
では、やはり「ウコンの力」は二日酔いに効くということなのだろうか?
「『ウコンの力』のビサクロンに二日酔い改善作用と肝細胞傷害抑制機能があるというのは、ハウス食品グループの研究開発部門が動物実験で確認した効果だとされています。しかし、ミネソタ大学の論文の例を踏まえると、人への吸収率はどうなのかという点がはっきりしないと、二日酔いに効くと明言することはできないでしょう。
それに、『ウコンの力』は『医薬品』でも『医薬部外品』でも『トクホ飲料』でもなく、あくまでも『清涼飲料水』です。そのため、含有成分の効果はあまり期待できるものではありません。
とはいえ、医薬品の場合も実際の効果の半分はプラシーボ効果といわれているぐらいです。清涼飲料水であっても『これは効くはずだ』と思いながら飲めば、効果につながることもあるでしょう」(同)
その一方で、宇多川氏は別の角度からウコンエキスドリンクの常用について警鐘を鳴らす。
「原材料名を見てもわかるように『果糖ぶどう糖液糖』をもっとも多く含む清涼飲料水なので、まずは飲みすぎないように注意しましょう。1日に2~3本飲むという方は少ないと思いますが、毎日のように飲んでいると糖分の摂りすぎになることも考えられます。
清涼飲料水なので、クルクミンをはじめとする含有成分による副作用も心配するレベルではないと考えられますが、肝機能が低下している方、抗血液凝固剤などを服用している方 、胆汁管障害や胆石を患っている方、妊娠中や授乳中の方などは飲みすぎに注意しましょう。
また、本当に怖いのは自覚症状が出にくい肝臓の異常です。仮に、『ウコンエキスドリンクが肝臓の機能を強化し、その働きを促進する』としても、飲み会のたびに『飲む前に飲む』を繰り返していると、肝臓の負担が大きくなり、結果的には肝臓の機能低下を招いてしまうこともあるでしょう。
また、仮に『ウコンエキスドリンクが肝臓の機能を強化せず、その働きも促進しない』のであれば、実際にアルコールの分解能力がアップするわけではないにもかかわらず、『効果がある』と信じてお酒を飲みすぎてしまい、同じく肝臓の負担が大きくなるでしょう。
『肝臓は無言の臓器』ともいわれるほど自覚症状が出にくく、症状が出てもだるさなどの程度のため、検査を受けて初めて肝炎や脂肪肝などと診断されることも多いのです。その肝炎や脂肪肝が肝臓がんに移行して、気付いたときには取り返しのつかない状態になっているというケースもあります。これこそが、ウコンエキスドリンクに頼ることの本当に怖い副作用だと考えています」(同)
ミネソタ大学の発表はウコンの効能を完全に否定するものではないが、ウコンエキスドリンクを過信したり依存したりといった習慣は健康を害する恐れがありそうだ。
(文=昌谷大介、増田理穂子/A4studio)