新宿西口商店街、通称“思い出横丁”は、新宿駅西口の大ガード沿いにある昭和レトロな飲食店が70軒以上立ち並ぶ飲屋街だ。おでんや焼き鳥、モツ焼きなどの絶品グルメを味わいながら、お酒に浸ることができる“のんべえ”たちのオアシスとなっている。
思い出横丁の歴史は古く、終戦後間もない昭和21年頃にできた闇市がルーツ。当時、日本では統制経済が敷かれていたため、統制品にならなかった牛や豚のモツなどを使って焼き鳥やモツ焼きを出す店が多数軒を連ねていた。現在、思い出横丁に焼き鳥店やモツ焼き店が多いのも、その名残だ。
また、昨今の若者を中心とした「横丁」ブームや、インバウンド市場拡大の影響を受け、客層は多様化。今では老若男女が肩を並べて酒や料理を楽しむ姿が珍しくなくなった。そんな多くの酔客で賑わう思い出横丁に、ある界隈では知らぬ人がいないほどの有名店がある。
その名も「朝起(あさだち)」――。ただならぬ印象を受ける店名だが、提供している料理もかなりのキワモノ揃いだと評判だ。
そこで今回、「朝起」の魅力を探るべく、筆者が実際に足を運んでみた。
「カエルの塩焼き」は鳥と魚の中間
訪れたのは、水曜日の午後5時。店にはすでに、常連と思わしき客が3名、入り口付近で飲んでおり、筆者はカウンター奥の席に通された。店内はかなり狭く、人が一人通るのも苦労するほど。横丁の居酒屋はどの店舗も、狭い店内でゴチャゴチャとしているのが魅力でもあるのだが、それにしても狭い。
1階はカウンター席のみで10席。2階にはテーブルがあるが、そちらも定員は10名。カウンターはひとつながりのベンチシートで、外に出る際には、ほかの客に声をかけて協力してもらわなければならない。
ただ、店長や常連客の人柄によるものか、店の雰囲気はかなり和やかで、それがきっかけで店長やほかの客と話すようになることも多い。横丁居酒屋の魅力である「ほかの客と仲良くなれる」という点では、店が狭いほうがいいのかもしれない。
席に着き、メニュー表代わりの張り紙に目を通す。すると、「金玉作り」という字が目に飛び込んだ。何かの隠語だろうか……。思わず大将に聞いてみると、「豚のキンタマのさしみですよ」と言う。ほかにも、「サンショウウオ焼き」や「カエルの塩焼き」など、普通の居酒屋ではまず見ることのできない珍品がズラリと並んでいた。