2025年、団塊の世代が75歳以上となり、国民の5人に1人が後期高齢者世代となる。厚生労働省は17年から70歳以上の高額医療費制度の自己負担限度額も引き上げる。超高齢化社会だというのに、高齢者にとっては生きにくい社会ではないだろうか。高齢者が生きやすい社会にするために医療費や福祉を当てにするだけでは心もとない。
高齢者はもちろんだが、若い世代から年を重ねるということに対しての意識改革が、これからの高齢化社会を支える一翼を担うのではないかと考え、実践する若き医師がいる。桶川みらいクリニックの岡本宗史理事長は、質のよい医療提供に励む一方で「医療リテラシー」の向上に力を注ぐ。
医療リテラシーが老後のあり方を変える
岡本氏が実践するのは、町のクリニックでありながら大学や市中病院のテイストを兼ね備えるクリニックだ。通常なら大学病院で行う検査を、クリニック単位で積極的に導入する。また、単に検査を行うのではなく、その必要性、病態の理解を患者が十分に得ることを重要視している。
「皮膚生検」なども積極的に行い、病理学的診断を重要視した上での治療を基本としている。岡本氏をはじめ勤務する医師たちは、経験とアカデミムズが備わりながら患者との距離は近い。さらに岡本氏がこだわるのは「医療教育」の提供であり、その理由をこう話す。
「患者や利用者が健康、病気に対する(最低限での)正しい知識を持ち、より学び考えるといった医療リテラシーを持つことで健康維持、予防医療は劇的に変わり、健康で充実した老後を送ることができる社会を構築したい」
認知症予防に空手エクササイズ
患者とクリニックとの距離を近くするため、イベントやセミナーも積極的に行い、認知症予防にも力を入れている。
「認知症には、アルツハイマー型と脳血管型が代表的ですが、共通して高血圧や脂質代謝異常などの生活習慣が乱れている方ほど発症しやすいという報告もあります。また、趣味を持たない人や野菜摂取量が少ない人も同様にアルツハイマー型を発症しやすく進行が早い傾向があります。そこで認知症予防に良い食事の指導を行い、趣味を持つのが難しいという利用者に楽しく体を動かしてもらえるよう空手エクササイズを取り入れています。空手という身近にあるスポーツをきっかけにして、体を動かすことを日常に組み込んでもらえたらという意図でしたが、利用者からは普段しない動きが刺激になり楽しいとの声を頂きました」
人生の終焉に医療はどうあるべきか
大学病院などでの先端医療を経験した岡本氏は、現代の医療のあり方に違和感を覚えるという。
「回復の見込みが難しくなった時に、どこまでの医療行為を行うかという確認ですが、現状では患者の家族が代弁していることが多いと思います。しかし本来は、人生の終焉は本人の意思によって決定されるべきでしょう。これから未曾有の高齢化社会を迎える日本では、社会で暮らす一人ひとりが自分の人生について事前にしっかりと考え、その考えが反映される社会形成が必要になってくるのではないでしょうか」
まさに、これからの超高齢化社会に必要な論点かもしれない。
医療費の削減を掲げる政府には、この医療リテラシーという理念が浸透していない。読者諸氏も経験があるかもしれないが「薬はジェネリックに」「風邪には安易に抗生物質は処方しない」では、患者は納得いく選択ができず、医療費の削減には直結しないのではないだろうか。岡本氏のような医師が増え、医療に新しい風を起こしてくれることを期待したい。
(文=吉澤恵理/薬剤師)