疲労回復や体調管理において、重要な要素である「睡眠」。
しかし、「毎晩、しっかり熟睡できている」と断言できる人は少ないだろう。最近は、日々の睡眠不足が蓄積されることで、がんや認知症などの病気リスクを招いてしまう「睡眠負債」という言葉も話題になっている。現代人が睡眠に関して不安を抱えていることの表れなのかもしれない。
夏は1年のうちでもっとも睡眠が浅くなり、「睡眠負債」を溜め込みやすくなる季節だという。パフォーマンスの低下や急な体調不良を招く“夏の睡眠不足”について、上級睡眠改善インストラクターの安達直美さんに聞いた。
1年でもっとも眠りづらい季節の「夏」
夕方から翌朝までの最低気温が25℃以上あると「熱帯夜」となる。暑さによる寝苦しさが引き起こす夏の睡眠不足には、どのような危険が潜んでいるのだろうか。
「夏の寝不足によって、日中のパフォーマンスが落ちてしまうのはもちろん、体調も崩しやすくなります。また、起きているときに優位になっている交感神経は睡眠時に休息するのですが、眠りが浅い状態では交感神経が休めず、自律神経が乱れることがあるのです」(安達さん)
疲れが溜まった状態で真夏の屋外に長時間にいるようなことがあれば、熱中症にかかるリスクも高まる。ただ“眠い”だけでは済まされないのが、夏の睡眠不足の危険なところなのだ。とはいえ、横になっているだけで汗をかいてしまうような熱帯夜では、入眠するのも一苦労だ。
「人間の脳と体は、眠るときに熱を外に出して体温を下げながら休息モードに入ります。その際、私たちは末梢血管から手のひらや足を通して体の熱を放出するのですが、外気温が高いときは体の熱をうまく放散することができず、深く眠ることができなくなってしまうんです」(同)
熱帯夜は体温と外気温が同程度になるため、体温が下がらず脳や体が休息モードに切り替わらないのだという。熱帯夜が増える夏は、必然的に睡眠負債を抱えがちになってしまうのだ。
さらに、夏にはほかにも眠りを阻む要因があるという。
「人間の睡眠時間は、日照時間とも深くかかわっています。日照時間が短く夜が長い冬に比べ、夜が短い夏は睡眠時間が短くなる傾向があります。その上、暑さで眠りが浅くなっていると、明け方の光でも目が覚めてしまうことがあるのです」(同)
熱帯夜や日照時間の長さなど、夏は睡眠不足になる要素であふれている。そのため、「そもそも、夏は眠れない季節と捉えるべき」と安達さんは言う。
寝酒、シャワー、エアコン…寝る前のNG行為
寝不足を感じたときは、日中に15分ほどの仮眠をとれば楽にはなるが、根本的な解決には至らない。寝苦しいとはいえ、いかに夜の間に熟睡できるかが重要なのだ。しかし、眠る前のNG行為によって、自ら眠りの質を下げている人も少なくないという。
「ひとつは入浴法です。暑いからシャワーだけで済ませるという人もいますが、湯船に浸かるだけでも快眠に近づきます。39~40℃のお湯に10分ほど浸かれば全身が温まり、その反動で体温を下げる機能(恒常性)が働きやすくなるのです」(同)