埼玉県感染症発生動向調査事業によると、埼玉県内で8月21日~8月27日に39人がO157と診断された。また、8月30日現在での全国のO157感染者の累積報告数は506人。この内、ベロ毒素(VT)型別は、VT2 が 597人、VT1が 44人。注目すべきは、検出されたのがVT2と呼ばれる毒素を出す同タイプのO157が多く報告されている点だ。
特に埼玉のケースは、同時期に一定地域で同タイプのO157が検出されており、感染源が同じ可能性が高い。死者が出たことも報じられた。しかし、いまだ感染源の特定に至っておらず、新学期が始まり学校給食などにも不安を感じる人も多いのではないだろうか。私たちができることは、O157に対する感染予防と、疑わしき症状が起きた時の正しい対処法を身につけることだろう。
O157とは
O157は、腸管出血性大腸菌のひとつである。過去の感染事例で、死亡に至るケースがあることからも、その脅威は広く知られている。特徴的な点は、強い感染力と強い毒素である。一般的な食中毒では、100万個以上の菌が体内に入らないと感染しないが、O157はわずか100個足らずの菌でも感染する。O157が付着した水や食物を摂取することで感染するほか、感染した人からも他者へ感染するので、タオルなどの共有も危険だ。
こういったなんらかの経路でO157の菌を経口摂取すると、菌は大腸で増殖する。その増殖の際に、強い毒性を持つ「ベロ毒素」をつくり出す。このベロ毒素が重篤な症状を引き起こす原因となる。
ベロ毒素は、腸の中でO157が増殖してつくられるという経緯から、潜伏期間が4~8日間と長い。そのため、O157の感染源である食品が広く流通してしまったり、まな板や包丁などの調理用器具などを介して料理にO157が混入し、感染を広げてしまうこともある。さらに、感染源、感染経路の特定が難しくなる。8月に大きな話題となった、埼玉でポテトサラダにO-157が混入して集団食中毒が発生した事件も、感染経路の特定が難しい状況にあるようだ。
ベロ毒素の恐怖
O157を含む食物などを経口摂取すると、多くの場合、4~8日の潜伏期間を経て激しい腹痛を伴う水様性の下痢、血便、発熱などの症状が現れる。O157に感染しても、成人の場合は軽い症状で回復することもあるが、糞便中に菌が排出されるため、家族に乳幼児や小児がいる場合は感染を広げないように注意が必要である。
また、注意すべきは、ベロ毒素によって引き起こされる溶血性尿毒症症候群(HUS)だ。HUSは、腸管出血性大腸菌感染症の患者の約1~10%に発症するといわれ、その症状は重篤である。その症状は、腸管出血性大腸菌感染症の発症後数日~2週間後に顔面蒼白、倦怠感、尿量の減少、浮腫の初期症状が現れ、さらに悪化すると傾眠や幻覚などの中枢神経症状が現れる。悪化が進み脳症となると、頭痛、傾眠、不穏、幻覚などの症状が続き、数時間~12時間後にけいれん、昏睡が始まり、最悪の場合は死に至ることもある。
下痢止めの使用が重症化を招く
いつもの腹痛とは違うと感じるような症状や水様性下痢、血便などが見られた場合は、速やかに医療機関を受診するべきであることはいうまでもないが、もしすぐに受診ができない場合でも、下痢止めを使用することは避けたほうがいい。O157が腸内に存在する状態で下痢止めを使用すると、かえって菌が腸内にとどまる時間が長くなり増殖する。その結果、多くのベロ毒素がつくり出され、重篤な症状を引き起こすことになる。
最後に、国や医療機関等がアナウンスする「食中毒の感染予防3原則」を紹介しよう。
(1)菌を付けない
手に付いた菌の拡散を防ぐため、十分な手洗いを行う。食器・調理器具の十分な洗浄・消毒・乾燥を徹底する。
(2)菌を増やさない
食材に付着した菌の増殖を抑えるには、低温で保存することが重要である。冷蔵庫は10度以下、冷凍庫はマイナス15度以下を維持する。
(3)菌を退治する
O157は熱に弱く、75度で1分以上の加熱をすれば死滅する。また、消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、逆性石けん液(ベンザルコニウム塩化物液)などの消毒剤が有効である。
ポテトサラダを食べた客8人が食中毒になり休業していた埼玉県内のスーパーは、感染経路が特定されないまま営業が再開されたが、利用者は不安を隠せないだろう。自分の身は自分で守るほかない。ぜひ予防3原則を実行していただきたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師)