高齢社会を迎えた日本では、認知症の方がどんどん増えています。2025年の認知症患者が現状の約1.5倍となる700万人を超えるとの厚生労働省推計が、2015年1月に発表されました。自分や家族のことを考えても、認知症は切実なテーマです。「自分は大丈夫!」というわけにはいきません。年をとれば、誰もがかかりうる病が認知症だからです。
近年、その人が認知機能の低下を引き起こすリスクが高いか低いかは、栄養状態からある程度予測がつくようです。
では、自分の栄養状態、そして認知症のリスクは、どうすればわかるのでしょうか。
それは、血液検査値のアルブミン値をみればわかります。アルブミンは血漿タンパク質のひとつで、血漿タンパク質の60%を占めています。アミノ酸、遊離脂肪酸、ホルモンなどと結合して、カラダの組織へ運搬する働きをしています。
東京都健康長寿医療センター研究所の新開省二氏の研究が、『NHKクローズアップ現代』(2013年11月12日放送)で、紹介されました。その報告によると、東京と秋田で健康な高齢者1000名以上の栄養状態とその影響を20年以上にわたって追跡調査したところ、血液中のアルブミン値が低い人は、そうでない人より長生きできない傾向がありました。また、認知症の前段階である認知機能の低下を引き起こすリスクが2倍、脳卒中、心臓病のリスクは2.5倍になるということがわかりました。
ほかにも、アルブミン値が低いと筋肉量が減ったり、血管の健康が維持されにくくなったり、免疫機能も落ちたりします。ただし、栄養状態が良くても炎症などが体で起きている人も、アルブミン値が低くなる傾向にあるようです。
理想的な食事法
では、どうやったらアルブミン値を上げることができるのでしょうか。
アルブミンは、肉や魚など良質のタンパク質食品をもとに体内でつくられます。ところが、加齢とともにタンパク質の分解、吸収力が低下するため、アルブミンをつくる力が衰えていきます。だからこそ、中高年以上の方は良質のタンパク質食品を若い人以上に積極的に摂る必要があります。
特に、肉をまったく食べない方はご注意ください。肉の代わりに魚や卵、大豆製品を食べている方は、血中のアルブミン値が低い傾向にあります。
それを裏付けるようなことがあります。戦前の日本において、伝統的な和食を構成する食材は、穀類、大豆製品、魚が中心で、肉、乳製品などの動物性食品が多くありませんでした。脳溢血などの疾患が多い時代で、平均寿命も今ほど高くありませんでした。
ところが、高度成長期を迎え、欧米の食文化の影響を受けて食生活が豊かになり、肉や乳製品など動物由来の食品を取り入れることで、人の血管も丈夫になりました。そのため、脳血管疾患が減り始めています。
肉をあまり食べていない方は、1日1回は食事に取り入れましょう。しかし、肉といっても種類や部位によって栄養成分は大きく異なります。牛、豚、鶏など、1種類に偏ることなくとるのがお勧めです。もちろん、皮や脂は取り除きましょう。1日1回50~100g程度を目安にとってください。食べ過ぎは、もちろん動脈硬化の原因をつくり血管の健康を損ね、認知症のリスクを上げかねません。
その一方、肉ばかり食べていた人は、魚も食べましょう。肉にほとんど含まれないEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、ビタミンDが豊富に含まれ、血管のしなやかさにも必要です。
私のお勧めは、肉、魚、卵、大豆・大豆製品、乳製品は、1日3食のなかでまんべんなく取り入れることです。たとえば、朝食が卵と大豆製品だったら、昼食は肉、夕食は魚というように、良質のタンパク質食品を重なることなく食べるのです。アルブミン値が低くならないよう、認知機能の低下を引き起こすリスクを上げないように毎日、バランスよくタンパク質をとるように心がけましょう。
(文=森由香子/管理栄養士)