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堂本剛を襲った「突発性難聴」…治療は「48時間以内」がリミット?

文=ヘルスプレス編集部
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堂本剛を襲った「突発性難聴」~治療開始のリミット<48時間以内>は本当か?の画像1突発性難聴は原因不明で確実な治療法もない(depositphotos.com)

 Kinki Kidsの堂本剛、エレファントの宮本浩次、スガシカオ、浜崎あゆみ……。彼らには共通点がある。「突発性難聴」を発症していることだ。

 突発性難聴とは、まさに突発的に聴力が低下する原因不明の難聴。先日、twitterで京都橘大学の池田修教授(児童教育学科)が投稿したツイート(2017年11月27日)が注目された。

「突発性難聴になったら、全てのものを投げ捨てて、病院です。発病後、48時間が勝負です。ステロイドの点滴か、高酸素のカプセルに入ります。/入院できるなら入院です。/いいですか?/全てを投げ捨ててです。/後から治療は出来ません。」

 このツイートは11万件以上の「いいね」を集めているが、医学的に正しい内容だといえるだろうか。

 結論から言えば、基本的には「イエス」だ。突発性難聴の治療は、一刻も早く行うべきだというのは間違いない。発症からの治療開始が早いほど改善率が高くなることは、多数の学術論文によって指摘されている。

治療開始のリミットは?

 ただし「48時間が勝負」という言い回しには、多少、疑問が残る部分もある。「48時間を超えてしまったら、もう手遅れ」という誤解を招きかねないのではないか。

 山形大学医学部耳鼻咽喉・前頚部科の窪田俊憲医師らは、突発性難聴症例の発症から7日以内にステロイド剤とPGE1(抗血小板薬)治療を開始した174例の改善率に関する報告を行っている(出典:山形大学医学部・窪田俊憲医師の論文)。

 発症から3日以内に治療を開始した83例では改善率が80%であったのに対して、4~7日に治療を開始した91例では改善率が56%にまで低下した。「治療開始までの日数」と「改善率」に有意な相関があることは明らかだ。

 一方で、この報告では「患者の年齢」と「改善率」にも相関があると述べられている。50歳未満の患者では、発症から3日以内に治療を開始した例と、4~7日に治療を開始した例で改善率に有意な差は認められなかった。

 これに対して、50歳以上の患者では、発症3日以内に治療を開始した症例のほうが改善率が高かった。このことから、高齢の人ほど、突発性難聴を発症したら急いで治療開始したほうがいいといえそうだ。

 また、東京医科大学病院耳鼻咽喉科の永井賀子医師らは、同院で入院治療を受けたグレード3以上(60デシベル以上の音でないと聞こえない)の突発性難聴121例の改善率に関する報告を行っている(出典:東京医科大学病院・永井賀子医師の論文)。

 121例の治療開始期間は平均3.7日。発症当日から1週間以内に治療開始した人の割合は全体の約9割で、48時間(2日以内)に治療を受けた人の割合は全体の約4割だった。全体の改善率は76.0%となっている。

 この報告でも「治療開始までの日数」と「改善率」に有意な相関があることが認められているが、「平均3.7日であり1週間以内にほとんどの症例は治療を開始していたため、聴力予後へ影響はないと考えた」とまとめられている。

 もちろん、池田修教授のツイートは治療が緊急を要することを訴えるために「48時間が勝負」と表現したのだろう。とにかく一刻も早く病院へ行くべきとの主張になんら異論はない。ただ実際のところ、治療開始が「発症から3日以降」になってしまっても、改善が期待できないわけではないことは覚えておいてもよいだろう。

突発性難聴は原因も不明、確実な治療法もない

 突発性難聴はある日、突然に起こる。症状が出現した瞬間、「耳の聞こえ方がおかしい」と自覚できるものだ。「いつからか徐々に聞こえ方が悪くなった」というように、時間の経過に伴って悪化したような場合、突発性難聴ではない。

 50~60代での発症が比較的多いが、小児から高齢者まで全年齢に幅広く起こる。難聴の程度には個人差があり、耳が詰まったような感覚(耳閉感)のみのこともあれば、まったく聞こえなくなることもある。

 症状は、ほとんどの場合、片耳だけに起こるが、まれに両耳同時に発生することもある。また、突発性難聴の症状が起こる前後に、耳鳴りやめまい、吐き気などの副症状を伴うこともある。日本では年間3~4万人程度発症するといわれており、けっしてまれな病気ではない。

 突発性難聴の原因については「ウイルス原因説」や「循環障害説」などがあるが、いまだ不明のまま。そのため、スタンダードといえる治療法は確立されていない。

 一般には、ステロイド、血液循環を改善する薬(血管拡張薬や抗血小板薬など)、ビタミン製剤などの投与が行われている。

「高酸素のカプセルに入る」というのは、高濃度の酸素を吸入して血流をよくする目的で行われる「高圧酸素療法」という治療法。大がかりな装置が必要なため、主に大学病院や総合病院などで行われている。

 実はこれらのうち、どれひとつとして医学的に評価が定まった治療はなく、治療ガイドラインさえないのが現状だ。

 2012年に米国耳鼻咽喉科頭頸部外科アカデミーが提唱したガイドラインでさえ「推奨(リコメンド)」できる治療法はなく、「試してみてよい(オプション)」のがステロイド投与と高圧酸素療法とされている程度だ。

 突発性難聴の治療成績は総じて、完治(聴力が改善回復)する人が3分の1、完治までは行かないが改善する人が3分の1、改善しない人が3分の1程度といわれる。最初に挙げたミュージシャンの例でも、浜崎あゆみは片耳が聞こえないままだという。

 ただ、多くの医学者が口を揃えて言うのは、「突発性難聴の発症には肉体的・精神的ストレスの関与」が疑われ、「安静」が重要だという点だ。その意味で「全てを投げ捨てて、とにかく病院に行き、入院できたら入院する」というのは正解だろう。
(文=ヘルスプレス編集部)

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