新型コロナ、「ゲノム解析」で感染対策が劇的進化…感染ルート特定、変異株大量判定も可能に
昨年4月7日の第1回目の緊急事態宣言から1年が経過した現在、新型コロナウイルスは収束どころか変異株の感染拡大が急速に進み、「まんえん防止等重点措置」が宮城、大阪、兵庫、東京、京都、沖縄の6都府県に適用された。
第4波といわれる急速な感染拡大の原因は、変異株とみられている。新型コロナの変異株には「英国型」「南アフリカ型」「ブラジル型」などが報告されており、現在、日本国内で猛威を振るう変異株は、英国型であることがわかっている。
すでに政府分科会の尾身茂会長は、今後、変異ウイルスが国内でも主流になっていくという認識を示し、監視体制を強化する必要性を政府へ訴えているが、感染は広がる一方である。我々は変異株にどう立ち向かうべきなのだろうか。
「変異」とは、ウイルスが細胞に入り込み、遺伝子の情報を複製し増殖していく複製過程で一部読み違えや組み換えが発生し、遺伝情報が一部変化する現象である。新型コロナに限って起こるわけではなく、多くのウイルスにも起こる。インフルエンザウイルスでも感染、増殖の過程でウイルスの変異は頻繁に起きているが、通常は小さな変異であり、ウイルスの性質が大きく変わることは稀である。
しかし、新型コロナの変異では、小さな変異とはいいがたい変化が起きているようだ。英国型変異株については、「感染力は従来型の1.7倍」「ワクチンが効かない」などさまざまな情報があり、不安を感じる人も少なくないだろう。しかし実際には、変異株についての詳細は十分にわかっていない現状にあり、さらなる研究報告が待たれる。変異株の感染拡大を阻止するには、その特性を知ることが重要であり、そのために必須となるのが”ゲノム解析“である。
4月5日、日本野球機構(NPB)と日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)による新型コロナウイルス対策連絡会議がオンラインで開かれ、ガンバ大阪で8名の感染者が出た事例についてのゲノム解析の結果が共有された。当初は、移動のバス内で感染が広がったと考えられていたが、ゲノム解析により、バス内ではなくロッカールームなどで感染が広がった可能性が高いことが判明した。
ゲノム解析とは、生物の遺伝子の配列を解析する技術であり、現在もがん治療や新薬の開発に利用されている。ゲノム解析を新型コロナの感染対策に利用することで、「高度の変異株判別」と「感染ルートの特定」ができると期待されている。
ゲノム解析の普及には、高額な検査費用と技術者の労力の限界など、解決すべき問題がある。そんななか、島津製作所が開発した「ゲノム解析システム」が注目されている。通常は手作業で行われる検査を、ロボットによる全自動化に成功し、1日に6000検体を判別することを可能にした。ゲノム解析が進み、変異株と感染ルートの特定が速やかにされれば、さらなる感染拡大を効率よく阻止できる。
日々の手洗い、マスク、3密回避という感染対策が重要なことは当然であるが、ゲノム解析を進め、本当に阻止すべき感染ルートはどこかを科学的に示し、より効果がある感染対策を講じることを政府と分科会に期待したい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)