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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

「小1プロブレム」の恐ろしい実態…忍耐力・協調性が著しく欠如、家庭での躾の不足が原因

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
「小1プロブレム」の恐ろしい実態…忍耐力・協調性が著しく欠如、家庭での躾の不足が原因の画像1
「Getty images」より

小1プロブレムの背景

小1プロブレム」という言葉を聞いたことがある人も、その意味をよく知らないことが多い。小1プロブレムとは、幼稚園から小学校への移行でつまずくことを指す。じつは今、そのような子どもたちの急増が大きな問題となっているのである。

 では、子どもたちはどのようにつまずくのか。まずは問題となっている子どもたちの行動をみてみよう。

 授業中に席を立って歩き回ったり、教室の外に出たりする。授業中に騒いだり、暴れたり、それを注意する先生に暴言を吐いたり、暴力を振るったりする。いわば、規律に従って行動することができないのである。そして、自分の思い通りにならないと、我慢できずに爆発する。

 小1プロブレムに関するある調査では、発生理由の筆頭に、家庭における躾(しつけ)が十分に行われていないことがあげられている。そのせいで子どもたちは自己中心的傾向が抜けず、衝動コントロールができない。

 幼稚園の教諭を対象に私が実施した調査でも、「今の子どもや子育て状況を見ていて気になること」の筆頭にあげられたのが、「忍耐力のない子が目立つ」ことであった。主な気になる点として、つぎのような傾向があげられていた。

「小1プロブレム」の恐ろしい実態…忍耐力・協調性が著しく欠如、家庭での躾の不足が原因の画像2
『伸びるこどもは○○がすごい』(榎本博明/日本経済新聞出版)

「忍耐力のない子が目立つ」64%

「周りに合わせられない子が目立つ」52%

「過度に自己中心的な子が目立つ」47%

「基本的生活習慣の欠如している子が目立つ」46%

 放課後児童クラブ・子ども教室等の関係者を対象に私が実施した調査でも、子どもたちにみられる傾向として、「忍耐力のない子が増えていると思う」の比率が最も高かった。比率の高かった項目は以下の通りであった。

「忍耐力のない子が増えていると思う」86%

「協調性のない子が増えていると思う」80%

「友だちとうまく遊べない子が増えていると思う」76%

「わがままな子が増えていると思う」75%

「きちんとしつけられていない子が増えていると思う」75%

「傷つきやすい子が増えていると思う」75%

 子どもたちと日々身近に接している人たちは、このようなことが気になっているという。ここから言えるのは、自己中心的で周囲に合わせられず友だちとうまく遊べない子が増えていること、そして忍耐力が乏しく基本的生活習慣も身についていない子が増えていることである。

 いわば、場に応じて自分を適切にコントロールすることができない。その結果として生じているのが小1プロブレムということになる。

衝動コントロールができない

 幼稚園の先生たちが、忍耐力がない、協調性がない、過度に自己中心的、基本的生活習慣が身についていないなどと懸念する子どもたちが小学校に進むのだから、当然ながら子どもたちは学校生活への適応に苦労する。そしてイライラする。それが小学生の暴力件数の急増傾向につながっている。

 文部科学省が2020年に公表した調査結果によれば、児童・生徒の暴力行為件数は増加傾向が続いており、2年連続で小学校が中学校を上回った。これは特筆すべきことと言える。

 児童・生徒による暴力行為の件数は、中学校、高校は減少あるいは横ばい傾向にあるのに対し、小学校は2006年に現在の調査方法になってから、ほぼ一貫して増え続けている。小学校の発生件数は、2006年度には3803件だったのに対し、2019年度は4万3614件となっており、なんと11.5倍に増えているのである。

 じつは、2011年までは小学校の発生件数は高校よりはるかに少なかった。2012年から小学校での発生件数が急激に増え始め、ついに2013年に高校を抜き、2015年から年々さらに急増中で、2018年には数年前まで断トツに多かった中学校をも抜き、今や高校の5.5倍となっているのである。凄まじい増え方と言うしかない。

 自分の思い通りにならないと我慢できず、つい暴れてしまう。そんな小学生が急増している。これは、子どもたちの忍耐力の欠如がいかに深刻なものであるかを物語る現象と言える。

忍耐力・衝動コントロール力を育てるのが喫緊の課題

 忍耐力が乏しく、衝動コントロールができないのでは、この先の未来にまったく明るい展望は描けないだろう。

授業中に先生の指示に従うことができない。

学校の規律を守ることができない。

わがままで友だちとうまく遊べない。

 かつての学校なら、このような子どもは先生から厳しく注意・指導され、忍耐力を身につけ、衝動コントロール力を身につけていった。だが、今は違う。保護者がそこに気づいていないととんでもないことになりかねない。

 何が違うのか。それは、学校の先生たちが子どもたちに厳しく注意したり指導したりすることができなくなったことだ。授業中に指示に従わない子に厳しく注意すると、「ウチの子が先生からきつい言い方をされて傷ついています。もう学校に行きたくないって言ってます。どうしてくれるんですか!」などと保護者からクレームが来たりする。実際、それで不登校になる子もいる。そのため、今は学校の先生たちは子どもたちに厳しく注意したり指導したりできないのである。

 そのため、忍耐力も衝動コントロール力も乏しいままになってしまう。するとどうなるか。授業に集中できず、家で宿題や試験の準備勉強をしなければならないときもゲームやテレビを我慢できず、勉強がおろそかになる。部活でも、ちょっと厳しいことを言われると嫌になり、すぐにやめてしまう。自己中心的傾向が抜けずわがままなため、友だちとうまくいかない、あるいは友だちができない。つまり、学校生活で大きな部分を占める学業、部活、友人関係のすべてにおいて挫折する可能性が高い。

 人生で何でも思い通りになるなどということはあり得ない。何かを成し遂げるためには、我慢しなければならないこともある。力をつけるためには、厳しい注意や叱責をも糧にするしぶとさや貪欲さが求められる。相手にも自分と同じように意思があるのだから、自分の思いばかり押しつけるわけにはいかず、適度に譲歩する必要がある。社会には決まりがあり、それを守らないと受け入れてもらえない。そのような当たり前のことを叩き込まれていない子が増えているのである。

 親としては、今や子どものしつけ学校任せにできない時代なのだということをしっかりと自覚し、わが子の忍耐力や衝動コントロール力を育てることを考えるべきだろう。そうでないとわが子に明るい未来が開けてこない。

(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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