前回までの本連載記事で、私たちの体(骨格、筋力)、知(知性、知力)、情(人情、愛情)の老化に伴う衰えが、食品摂取の多様性得点のレベルで大きく違ってくることがわかった。病気というある意味「異常」に対処(予防やコントロール)するための食事にばかり目を奪われていると、思わぬ健康リスクを背負ってしまうかもしれない。
ちなみに老化というのは「異常」な変化ではなく「正常」な変化である。以前に本連載で「悪い老化」という言葉を使ったことがあるが、これは標準的な老化の進み具合より早く進む老化、あるいは稀有ではあるが特定の生活機能で老化がとても早く進むことを指している。老化という「正常」の変化を、いかに穏やかに進むようにするかが健康長寿のための手だての開発目的である。
超高齢社会では、人生を生き抜くため体・知・情の総合的な健康リスクを減らすことが必要になる。このような発想に基づき老化と栄養の関連科学の研究から生まれたのが、食品摂取の多様性得点である。今回は、この食品摂取の多様性得点をどのようにして改善するかを解説する。
そもそも食品摂取の多様性得点は、加齢し老化が進むに従い低下してゆく。そのため多様性得点は、老化の程度も反映した変数とみることもできる。筆者が研究指導した韓国の研究者の分析データを紹介しよう(European Journal of Clinical Nutrition, 2006, 60, 305-311)。老化による食品摂取の多様性得点低下を促してしまう要因と、予防する要因を探索した研究である。
多様性を維持増進する手段を開発するためのファーストステップの取り組みである。とても明瞭な結果である。まず、老化に伴う多様性得点の低下を促してしまう要因は「配偶者との死別」と「噛む力の低下」である。
配偶者との死別は介入して制御できないライフイベントである。一方、「噛む力の低下」には介入できる。重要なのは噛む力を自己評価する点であり、噛む力が落ちたなと自身で感じたら老化の速度は格段に早まっている。食品摂取の多様性が噛む力の影響を受けることは自明といえばその通りだが、シニア世代は噛む力の定期点検と増進トレーニングが必要なことを知るべきだ。最近見聞きする口腔ケアは入れ歯でも構わない噛む力を維持することが目的だ。
対して、多様性得点の低下を予防する要因だが、これが意外にも余暇活動を増やし知的能動性を高めるライフスタイルであることがわかった。食品摂取の多様性は、知性を促し生活を楽しむ意欲で維持できるのである。食品摂取の多様性を高め老化を遅らせるにはレジャーが欠かせない。「食はレジャーにあり!」。なんとも含蓄のある分析データである。楽しく遊べば老化が防げるということだ。このデータは観察研究のため、介入研究で実証しなければならない。