大坂なおみ、うつ公表でスポーツ界に一石…コロナ禍でメンタルに不安抱える人は4倍増
「強い肉体には強い精神が宿る」という言葉があるように、一流アスリートともなれば当然、強い精神が培われていると考えがちだが、実際にはそうではない。大坂なおみ選手が5月下旬に、自身がうつ病であることを公表し、大きな話題となった。
大坂選手がインスタグラムに投稿した内容は、2018年の全米オープン以降、長い間うつ病を抱え、それに対処するのはとても大変だったというものであった。さらにその後、自身のメンタルヘルスを守るため、今年の全仏オープンで記者会見をしないと発表し、同大会を途中棄権した。また、その数週間後には英ウィンブルドン選手権の欠場も決めた。
多くのメディアが大坂選手のうつ病を取り上げセンセーショナルに報道したが、7月6日には東京オリンピックへの出場を明言し、7月12日には恋人であるラッパー、コーデとの仲睦まじいツーショット写真をインスタグラムに投稿するなど、最近の大坂選手のメンタルコンディションは安定しているようにも見受けられる。
プレッシャーからうつに
3月31日に行われたマイアミ・オープン、女子シングルス準々決勝で世界ランキング2位の大坂選手は、同25位のマリア・サッカリに敗れた。試合の勝敗によっては、アスリートのメンタルコンディションも大きく変化すると思われるが、その後の記者会見で大坂選手の話す様子に、その心の内が反映されているという。
明治大学教授で言語学者の堀田秀吾氏は、会見の様子から読み取れる点がいくつかあると話す。
「大坂選手は普段からボソボソと話すタイプですが、このインタビューではあまり笑顔もなく、元気もないですね。パブリックスピーチが苦手だと本人は前から言っていますが、この映像ではいつもより表情が硬直しているし、ため息も多いことから、少しメンタル的にいろいろと弱っている感じはしますね。日本の記者からの質問で、サービスの際にトスの失敗が多かった理由について、技術とメンタルいずれの問題かと尋ねられて、『技術ではない』と言っていることからも、精神面がプレーに影響していることを自覚しているようにもとれます」
精神面がプレーに影響していることを自覚しているとしたら、その情態での記者会見は、さらに大きな苦痛やプレッシャーとなるに違いない。大坂選手が勇気を持ってうつを公表したことは、自身を守るために必要だったのだろう。
スポーツ界に一石を投じた
スポーツ薬剤師で海外についても詳しい石田裕子氏は、大坂選手のうつ病公表は、他のアスリートにとっても意義あるものだったと話す。
「大坂選手のメンタルヘルスに関して、海外ではほぼ好意的です。理由として、コロナのパンデミックによって人々のメンタルヘルスへの関心が高まっていることが挙げられます。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると、メンタルに不安を抱える人は2019年から2020年の1年間で4倍になったそうです。『大坂選手が10年前に同じことをしていたら批判が集中していただろう』と言う人もいました。
また、アメリカの大学生でメンタルに不安を持つ人のなかで、通院などの対策を行っている人は30%なのに対して、大学生アスリートは10%しか対策を講じていないという調査結果もあります。全米スポーツ協会は、メンタルヘルスが身体的健康と同じくらい重要であるとし、選手がいつでもメンタルサポートを受けられるようなシステムを確保していますが、社会的偏見やチームメイトからの評価を気にして、利用する人は稀だそうです。今回の大坂選手の投じた一石により、アスリートのメンタル問題に対する社会の環境変化が期待されます」
コロナ禍での東京オリンピック開催となり、選手たちのストレスは計りしれない。うつを乗り越えて出場する大坂選手にエールを送りたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)